「薄々だけどね。他にもいると思うよ、気づいている人」
「うん」
「気づきたくなくて、気づかないふりをしている人も、いるかもしれないけどね」
自転車が、ランナーが、女子高生が、ベビーカーを押したお母さんが、私達を次々と追い越していく。本当は、何人が、誰が、気づかぬふりをしてくれていたんだろう。攻撃してくる人もたくさんいたけれど、受け入れがたい人もいるだろうけど。もしかしたら、受け入れてくれる人も、たくさんいるのかもしれない。
「絹代、僕」
「なに」
絹代は前を向いたまま返事をした。何を言っても変わらないよ。真っ直ぐ歩き続ける姿は、そう言ってくれている気がした。すっと小さく息を吸うと、秋の冷たい空気が鼻孔をかすめ、背筋が伸びた。私は私として生きていける。でも、この髪は。
「私、ヘアードネーションするよ」
「そっか」
絹代の方を向くと、西日が絹代の髪の毛をオレンジに照らしていた。透き通るほど、眩しかった。私の髪も、きっと、きらきら光ってる。