「そうだ、若木クン。ここは一つ、二人同時に、来栖さんに告白してみないか?」
僕はてっきり、この提案に対して若木が何か答えると思っていた。だって若木に向けて言ったのだから。ところがそんな予想に反して、来栖さんが眉間に皺を寄せながら僕に言った。
「罰ゲーム?」
「え?」
「どうせ誰かにヤレって言われたんでしょう? 砂岡あたりに」
「ち、違いますよ。僕は真剣に――」
そんな来栖さんと僕のやり取りに、若木は一人で納得したように「なるほど、そうか、罰ゲームか、お前も被害者なんだな」と言って、同情するような目で僕を見た。だから僕はサングラスを外して――いや、外しちゃダメだったと慌てて掛け直して、若木に対抗した。
「若木クン、確かにキミはカッコイイ。男の僕から見ても、顔、性格、スタイル、どれをとっても100点だと思う。だけど、今の僕は、120点だ!」
「?」
「顔、性格、スタイル、全ての面で、キミを凌駕する!」
「リョ、リョウガ?」
「あぁゴメンゴメン、難しい言葉を使ってしまったね。凌駕というのは、そうだなぁ、要するに、今の僕は、キミを超えているということだ!」
ことのほか大きな声を出した僕は、アドレナリンが出まくっていた。怒った時、頭にカッと血が昇ることがあるけれど、今の僕はまさにあんな感じ、もう、止まらない特急列車だった。
「来栖さん! 来栖、愛理さん! 僕は今から、あなたに告白する!」
大きな瞳を二、三度パチクリしただけの来栖さんに、僕は「小学五年生の時、あなたは僕を救ってくれました。通学路の民家にいた『マロン』って名前の犬、覚えていませんか?」と、これまでずっと胸に秘めてきたエピソードを彼女に語った。
「僕が放課後、給食で余らせたパンを『マロン』にあげていた時、飼い主のおじさんに見つかって、『余計なことをするな!』って怒鳴ってきた時がありましたよね?」
「……?」
「僕がそのおじさんに叩かれそうになった時、『私がヤレって命令したの、ゴメンなさい』と突如あなたが現れて、僕を救ってくれました」
「……」
「あの日、あの時から、僕にとって来栖さんはジャンヌ・ダルク! いや、マザー・テレサ! ナイチン――」
「どうでもいいけどさぁ」
胸まで伸びた黒髪をフワッと掻き上げて、来栖さんが言った。
「アンタらのこと、別にタイプじゃないから」
「え」
「え」