小説

『三つの条件』太田純平(『三つの宝』)

「浦西、お前、騙されたんだよ、砂岡に」
「え?」
「アイツこの間、落とし物箱から色んな物パクってたんだ。多分、今お前が身につけてるモン、全部あの落とし物箱から拾ったやつだぞ」
「!」
「どうせ高い金で買わされたんだろ? お前の家、裕福だから、カモにされて――」
「ち、違うよ柿本クン、違うよ」

 僕は反論した。柿本クンの推察に。確かに僕は砂岡たちからこのアイテムを買った。だけど、さっき、あの時間、あのトイレで昼ご飯を食べていたのは紛れもなく偶然だ。もし僕が別のトイレでご飯を食べていたら砂岡たちには出会わなかっただろうし、そもそも僕がトイレから一切出て来なかったら、売るなんて発想は彼らにはなかったはずだ。
 そんな話を柿本クンにすると、彼は心底僕を憐れむような顔をして「まぁ、お前がそう思いてぇんだったら別にいいけどさ、俺、一応、先生に――」と言って僕の肩をポンポンと叩き、職員室の方へ去って行ってしまった。
 ごめんよ柿本クン、忠告を無視して。僕だってそりゃあ、性格が良くなる紅白帽の効果なんて、被るまで半信半疑だったさ。だけどいざ紅白帽を被ってみたら、なんかこう、世界が変わったんだ。自分に自信がついた。廊下を堂々と歩けた。もう僕に怖いものなんて何もない。そう思えたんだ。

×   ×   ×

 サングラスのせいで目の前がおぼつかない中、僕は急いで屋上へ続く階段を上った。すると、屋上に出る扉の前に、来栖さんと若木が立っていた。若木は僕を見やるなり大きく眼を見開いて「う、浦西?」と動揺した素振りを見せた。
 僕はその刹那、彼らの後ろにある扉に目をやった。「立ち入り禁止」の貼り紙が貼ってある。きっと試すまでもなく、鍵が掛かっているのだろう。だから若木は屋上に出られず、来栖さんに何も言えないままグズグズしているのだろう。

「う、浦西、お前、その格好――」
「若木クン」
「あぁ?」
「僕は、来栖さんに用があるんだ」
「な、なに? お、俺だって今から、来栖に用が――」
「なんの用だい?」
「そ、それは……」

 若木は来栖さんを盗み見てから、言いにくそうに、それでいて開き直ったような口調で僕に言った。

「告白すんだよ、今から」

 来栖さんはブレザーのポケットに手を突っ込んだまま、退屈そうに立っていた。校則違反スレスレのミニスカートに大人っぽい化粧をして。
 僕はそんな来栖さんの艶めかしさと、若木の告白がまだだったことに気が大きくなって、「そうか、告白か。実は、僕もなんだ」と胸を張って告げてから、若木にこんな提案を持ちかけてみた。

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