小説

『三つの条件』太田純平(『三つの宝』)

「もし、よかったら、僕にそのォ、魔法のアイテム、全部くれるっていうのは、どうだい?」
「はぁ?」
「だ、だって、三人が一つずつ持っているから、争いが起きるんだろう? だったらこの際、全然関係のない、僕に売ってしまうっていうのは、どうだろう。もちろん、タダでとは言わないよ?」

×   ×   ×

 僕は廊下を颯爽と歩いた。無論、頭には紅白帽、顔にはサングラス、下半身には制服の代わりに半ズボンを履いて。
 言わずもがな、男は顔、性格、スタイル、この三つだ。それを今、僕は体現している。人間、変われば変わるものだ。今の僕を映像化するとしたら、BGMにはイカしたクラブミュージックが流れているに違いない。ラップなんか挟んじゃって。だって今の僕、カッコイイもん。胸を張ってさ。

「お、おい、浦西」

 声がしたので振り向くと、バスケ部のキャプテンである柿本クンが僕に寄って来た。サングラスをしているから、周囲の景色が夕闇みたいで良く見えない。

「やぁ柿本クン。なんだい」
「お、お前、何やってんの?」
「何って――オシャレ?」

 柿本クンは口をぽかんと開けて僕を見た。男に惚れられるとは、やはり三種の神器の効果は絶大だ。

「いや、えーっと、浦西、お前――」
「それより柿本クン、来栖さんは?」
「え?」
「来栖愛理さん。どこに居るか知ってる?」
「あ、あぁ、そういやさっき、テニス部の若木と屋上の方に――」
「屋上?」
「あぁ。あの雰囲気は多分、若木のやつ、来栖に告るな」
「!?」

 ま、まずい。先を越される。若木はいけ好かないけど、僕の目から見ても顔、性格、スタイル、どれも完璧な男だ。

「な、なぁ浦西、それよりお前、その恰好――」
「ごめん柿本クン、時間がない。行かなきゃ!」

 そう言って行こうとする僕のブレザーの袖を、柿本クンが引っ張った。そして「待てよ浦西、お前、またイジメられたのか?」なんて不思議なことを言うから、誰に対しても優しくて信頼の置ける柿本クンに、魔法のアイテムの存在や、それらを砂岡から買った経緯なんかを洗いざらい話した。すると柿本クンの目に推理の色が浮かんだ。まるで「買った」「砂岡」「魔法のアイテム」、この三つの情報から、全てを理解したように。

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