「うん……少しだけ話相手になってくれるかい?」
「……私でよければ」
ルグレは、ゆっくりと自分の話をし始めた。自分は、預言の少年であること。幼い頃から水龍を倒すために育てられたこと。今日も水龍の偵察のために海にいたことを、すべて話した。ディーネはその間、何も言わずにじっと話を聞いていた。
「ディーネ、僕は怖いんだ。水龍を倒す預言の子として生まれた僕は、水龍を倒すこと以外に存在する理由がない。でも、今日は何も手出しできなかった。もし、水龍が倒せなかったら……いや、水龍を倒せたとしても、僕はその後、何のために生きるのだろう」
「ルグレ……」
「……ごめんね、こんなこと、出会ったばかりの君に話してもどうしようもないのに」
「……君は今日、何もできなかったのかもしれない。けれども、諦めなかったでしょう。大丈夫、ルグレはきっとこれからもみんなに求められるべき人だもの」
「……そうかな。僕には自信がないよ」
「君は強いよ。だからみんなに頼られているんだ。ほら、もう今日は寝よう」
ディーネがルグレの頭を優しく撫でる。ルグレはそのまま、意識のなかに沈み込むように眠りについた。
翌朝、ディーネに外へ連れられて外に出た。突然どうしたのかとルグレが問うと、彼女は海を指さした。海を見れば、ルグレの父親や村人たちが船に乗り、ルグレの名を呼んでいた。彼を探しにきたのだ。
「お別れだね、ルグレ」
ディーネはそう言って悲しそうに微笑むと、ルグレの手のひらに何かを乗せた。それは羽のように薄くて軽く、美しい青色に輝く円状の物体であった。
「お守り。水龍退治、頑張ってね」
「ディーネ……。ありがとう、僕、頑張るよ」
ルグレは海に向かって駆け出し、大きく声をあげた。父親たちはルグレに気づき、船を寄せてきた。ディーネが助けてくれたことを父親にも知らせておこうと思い、彼女がいた方向に視線を向けた。しかし、ディーネはもうそこにはいなかった。
ルグレが流れ着いた先は、村がある場所からずっと離れた砂浜だったので、村に帰るには海を通った方が早い。普段ならば危険な道だが、ルグレがいない間、村人たちは海でルグレの捜索を行っていたが、水龍は何故か一度も現れなかったのだと父親は話した。
村まであともう少しというところだった。それまで凪いでいた海に、風は出ていないのにも関わらず大きな波が出始めた。ルグレと村人たちは瞬時に察した。これは水龍が出る予兆である。水面に黒く大きな影がゆらりとうごめき、ルグレたちに緊張が走る。
「ルグレ、これを使え」
ルグレの父親はそう言うと、鉄製の銛を手渡した。
「父さん……」
「ルグ坊! 頼むぞ!」
「お前さんしか頼れる人間がいないんだ」
村人たちがルグレを激励する。彼はずっと自分に自信が持てなかった。それでも、村人たちはルグレを信じて、危険を顧みずに海まで探しに来てくれた。