「な…な…なんたる無礼を。」
大臣の顔はすっかり青ざめて王を抱え起こすのも忘れ呆然としている。それを余所にマウロは細長い腕を王に差し伸べ彼を引き起こすと見得を切った。
「王様、この玉座に座るには少々コツが必要に御座います。」
「ほうコツとな、マウロとやら申せ!余は国民の前でこの玉座に見事に座ってみとうなった!お主の様に。」
「ならば先ず国民を愛すことです。そして愛されることかと。この玉座が国民の目に映る時、きっと至福の座り心地を味わう事になりましょう。」
「こ奴、言いよるわ。後ほど指南致せ。」
王はマウロの耳元で囁くとゴッチに向かって謝意を述べた。
「ゴッチよ、見事な玉座であった。これからの国政に大いに役立てよう。感謝する。大臣、存分に褒美を取らせろ。」
「宜しいのですか?」
「無論だ。ここに集いし職人達よ、此度の働き誠に大儀であった。今も昔も職人あってのキントレイである、これからも存分に励んでくれ!」
王自ら職人を鼓舞したその一言は終戦への真実味を帯び職人達は大いに沸くとゴッチ達は仲間から少々手荒な賛辞を受けその日の主役となった。その後、開かれた晩餐会には職人達も招かれ豪勢な食事と酒が振る舞われた。酒が入り上機嫌となった王にマウロは何度も空気椅子の指南をさせられていたという。キントレイの暗くて長い夜が漸く明けようとしていた。
次の日、国境へと続く街道には大規模なパレードが列を成し多くの国民が見守る中、馬車に轢かせた台座の上で空気椅子に座る王の姿があった。国民は何度も何度も尻餅をつく王を見て次第に笑顔を取り戻したという。
一方、カールは空気椅子が大層気に入り足腰の鍛錬に適しているとし国中にこれを広めた。お蔭で国民の多くは年を重ねても丈夫な足腰のまま健康に老後を過ごせたのだという。高齢者でも元気に働ける社会は多くの生産力を産みキントレイを戦時下よりも豊かにしていった。また最強の歩兵軍団が育ったことで自国防衛に大いに役立ち未来永劫続く平和を築き上げたという。