「いいから手を貸してくれ。頭を打っちまった。」
「親方、思い付いたんですよ俺!あの王様にピッタリな玉座のアイデアが!」
「なんだと?聞かせろ!」
マウロは興奮気味に思い付いたアイデアをゴッチに伝えた。それは彼ならではの発想だった。ゴッチには創り得ないマウロだからこそ出せるエッセンスが必要になる。翌日から二人は食事と睡眠の時以外は工房に籠り創作の最終調整に入った。
いよいよパレード前日を迎えた。この日、宮廷で行われる晩餐会前の叙勲式が終わるといよいよ職人の出番が訪れる。鎮座する王の脇に控えた大臣が職人の名を読み上げると、その職人は王の前に進み出て献上品を披露していく。王はその品を一通り愛でるとその仕事に応じた額を職人たちに支払った。そしていよいよゴッチの名が呼ばれる。
「ゴッチよ。お前には明日のパレードで王が鎮座する玉座を依頼していたな。どこにある?早う献上せい。」
「へい、何分重厚な造りゆえ別室にて御用意しております。直ぐに弟子に持って来させますんで。おい、マウロ!」
「へい只今!よっこらしょっと。」
ゴッチの呼び掛けにマウロがよろけた足取りで王の間に現れるとそこにいる全ての者が唖然とした表情を浮かべ口をあんぐりと開けた。マウロは何かを重そうに運んでいる。だがその何かが奇妙なのである。彼等の目にはマウロは何も運んでいない様に映るのだがマウロは確かに何かを運んでいる。
「お待たせしました陛下。ご注文の玉座に御座います。このゴッチ、一世一代の傑作、とくとご覧を。」
マウロが荷を下ろす様な動作を終えるとゴッチは自慢げに発した。呆気にとられた大臣もこれには顔を赤く染め激高する。
「何が傑作か!どこに玉座があると言う?おのれゴッチ、王を愚弄するか!」
「おや閣下にはお見えにならないので?ここにこうしてご用意致しましたが?」
「バカを申せ!何処にあると言うのだ!」
「閣下はあっしめにカール陛下の権威を示す玉座を作れとお命じになった。どうもその権威とやらは我々諸民にはとかく目に映り難いものでして、ですので少々見えづらい玉座を拵えました。王のお傍で誰よりもその権威を目の当たりにして来られた大臣とあろう者がお見えにならないとは不思議な事もあるもんだ。」
「貴様、言わせておけば!そこに直れ!弟子共々、叩き斬ってくれる!」
大臣は腰に携えた剣に手をやると今にも抜かんばかりの形相でゴッチを睨みつけた。その場にいた誰もがゴッチの死を予感した。
「待てラザノフ!祝いの場ぞ!勝手な狼藉は断じて許さぬ!控えよ。」
「ですが王!」