小説

『三十年の時を越えて』ウダ・タマキ(『浦島太郎』)

「遅くなってごめん」
「ごめん、って、どうゆうこと?」
 夢か現実か幻か、僕には全く理解できなかった。しかし、目の前にいるのは中学生の亀ちゃんなのだ。僕はその場に立ち尽くした。

「はい! オッケー!」

 どこからか手を打つ音がした。そして、大楠の背後から姿を現した人物こそ僕と同じ四十五歳の亀ちゃんだった。
「亀ちゃん?」
「太郎君、久しぶりだね。約束、覚えてくれていて嬉しいよ」

 僕は目の前で起きていることがすぐに理解ができず、二人の顔を何度も見比べた。
「息子の聡太だよ。驚かせようと思ってさ」
「そうゆうことか、相変わらずだな」
 いたずらな顔をして笑う亀ちゃんは、あの頃のままだった。僕達は互いに歩み寄ると硬い握手を交わした。三十年の長い年月が一瞬にして繋がった気がした。

1 2 3 4 5 6