小説

『蚊』永佑輔(『蚤と蚊』)

「幽霊って設定、俺の前では外して貰っていいですか? デーモン小暮じゃあるまいし」
「ですから本物の幽霊なんですって。どういうわけか成仏できなくて……」
「成仏ねえ」
 山田は鼻で笑い飛ばして腕にバッテンをつけた。拍子に女幽霊が薄くなってゆく。
「どうしたんですか? 消えそうなんですけど」
「あ、ホントだ。きっと、その腕の十字を見たせいでしょう」
「さっき成仏って言ったばかりじゃないですか。成仏って仏教用語でしょ?」
「クリスマスを祝った一週間後にお寺で除夜の鐘をついて、明くる日には神社に初詣。そんないい加減な私です。あの世に行けさえすれば何だっていいんです」
 女幽霊はさらに薄くなる。
「ちょっと待った。アナタが消えたら俺は一体どうなるんですか?」
「セッセとお働きなさい」
 フッ、と女幽霊は消えた。
 山田はかゆみをすっかり忘れて所在なくたたずんだ。
 お盆真っ盛り、酷暑の昼下がりである。

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