「今⽇は楽しかったわ。ありがとう」
「そりゃあどうも。今⽇⼀⽇でお嬢さんが沢⼭笑ってくれてオレも本望でさぁ。あぁ、お別れの時間ですお嬢さん」
森の中を歩いていたはずの私たちはいつの間にか、⼀番初めに潜った扉の前に⽴っていた。本当に、もう帰らなきゃいけないんだ。
楽しかったわ。今まで⽣きてきた中で⼀番。⼦供みたいに笑って、道化師さんと⾛り回って、本当に最⾼の⼀⽇だった。ありがとう。
そう⾔いたかったのに、私の⼝は動かない。
「……また、会えますか?」
「いや、無理ですね」
期待を込めた私の⾔葉に嘘偽りのない道化師さんの声が跳ね返ってくる。泣きたくなった。
「っ、何で」
「そりゃあ、今⽇が『お嬢さんが⼦供でいられる最後の⽇』だからでさぁ」
初めから分かっていた⾔葉が胸に突き刺さる。
「⼦供は便利! どれだけ夢を描いていても誰にも咎められませんからねぇ。でも⼤⼈は違う。現実⾒なくちゃ。このナンセンスな国に⽣きるオレたちはそんなの気にしませんけど、お嬢さんがたの国は違うでしょう? なぁお嬢さん」
じわじわと⽬元に滴が溜まってくる。あぁ、私は今悲しいんだ。短い時間だったけど信頼していた⼈に突き放されて。
道化師さんは最初から今も笑みを崩さない。さすが職業柄といったところだろう。でも私はそれを⾒るのが⾟かった。だってその笑みには、感情がないということに気付いてしまったから。
「夢から醒めるときが来ましたよ」
「いやだ! いやだいやだいやだ! ⼤⼈になんてなりたくない! ずっと遊びたい! 何も考えたくない! ⼦供のままでいたい!」
⾃分のものとは思えないような声が溢れ出てくる。何で。嫌だみっともない。こんな、⼦供みたいな。誰か私の⼝を塞いで。そう願っても⾔葉をどんどん溢れてくる。
「私、ずっとここにいたい。だってここの世界、とっても楽しいんだもの。もう⼆度と来れないなんて嫌! ここでずっと『なんでもない⽇のお茶会』をしたり……あぁ! 今⽇は急ぎ⾜だったから、ゆっくり⾒回りましょ! この国⼈たちとのんびりお喋りして……うん、それがいいわ! ね、お願いよ道化師さ――」
「無理ですってば」
⼦供を宥めるような優しい声⾊で、拒絶される。私は何も⾔えなくなった。
「停滞は死だ。⽣きるためにお嬢さんは進み続けなければいけない。欲しいものを捨て、必要なものを選ばなければいけない。⼤⼈は苦しい、それでも⼤⼈になるしか、⼈は選択肢がない」
「……何を⾔いたいのか、分からないわ」
「クハハッ! 冗談が過ぎますぜお嬢さん。本当は、分かってるでしょ?」
そう⾔って道化師さんは扉に鍵を差し込む。開かれたそこは真っ暗で、中に⼊りたくない。