小説

『シンデレラは……』スマイル・エンジェル(『シンデレラ』)

正直、ヨシミンに会いたくてしかたないのだ。

何度か、ヨシミンと語りあううちにヨシミンには6歳の時に病気で死別した双子の妹がいた。その妹の死をきっかけにして、母親が極度の精神病になり、父親も蒸発してしまい、ヨシミンは18歳まで、施設で過ごす。ずっと両親にも会っていないそうだ。今は得意のパソコンと美的センスを活かして、フリーのウェブデザイナーとして仕事をしている。

「私、友達は多い方だけど、この部屋に人を入れたのは翔太で、2人目だよ」
と窓を開けて夜空を見上げている。
ビールの缶を持ち、ヨシミンの隣に立ち一緒に夜空を見上げる。
ふっくらと丸みを帯びたお月様が優しい光を放つ。
ヨシミンの髪から、まろやかなはちみつレモンのような香りが漂う。
「満月まであと3日……翔太にお願いがあるんだ」
至近距離で、ヨシミンに見つめられて、心臓の鼓動が激しくなる。
「お願いって?」のどが渇いて声がかすれてしまう。
窓から離れて、いきなりヨシミンが上着を脱ぐ。
華奢な上半身にキャミソール一枚になったヨシミンはさらにそのキャミソールを脱ぐと小ぶりの胸に淡いピンク系のブラ姿になった。
もう、この状況にどうしていいか戸惑っていると
「ねぇ、ちゃんと見て」とヨシミンは小さい胸の谷間を指でさし
「ここにほくろがあるでしょ」と黒いホクロを見せる。
「あと、こっちも」と言って振り返ると右肩の下のあたりに皮膚が手のひらほどのケロイド状態になっている。
「これは、施設にいた時についたものなの」
ヨシミンは、それ以上は説明しなかったけど、あまりいい事情ではなさそうだった。
上着を身に着けて「驚いたでしょ。ごめんなさいね。でも、何があっても、翔太に私だってわかって欲しいから」
「何があってもって?」
「もうすぐわかるわ。満月の夜に会わせたい人がいるの」
「会わせたい人?」
「そう」
「その人って、ヨシミンにとって、大事な人」
「うん。すっごく大事な人」
また、心臓の鼓動が早くなる。
ヨシミンの大事な人。その人とは。
突然足元が崩れて腰が抜けたようにその場に座りこむ。
「その人は、女性?」

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