真直ぐ睨んでくる青年の目に、少年は崩れたまま顔を上げられなかった。
「――――そうですね」
少年は黙って鉄門を出て行った。
次の日の体験教室に少年は来なかった。青年は一日笑わなかった。
三日経っても少年は工場へ来なかった。青年は一日少年のことを考えていた。
あと二日で夏休みが終わってしまう。青年はだんだん腹が立って来た。
ずっと来ないまま、どっか分かんねえ真夏の町をぶらぶらしてる少年は、もう会えないならもう会えねえって言うべきだし、来るの怖いんなら電柱とかから半顔でこっち覗くとかするべきだろ。
卑怯な真似しやがって、と青年は少年の履歴書を睨んだ。
ぶつける相手の居ない怒りは、夜の静けさの中で悲しみに変わった。
青年は当てもなく夜の町へ出た。
虫の鳴く夜道を、只管真直ぐに歩いて行った。
素脚に擦れる草は昔のことを思い出させた。だからあいつを同んなじ目に合わせたくないって。しかし通り過ぎて行った車の音がそんな自分を否定する。嘘つけただ怖かっただけだろ。
ぼやけた月が、また青年を悩ませた。
気付くと青年は丘を登っていた。
厳しい眼差しで俯く青年は、暗い坂道を淡々と登って行った。
狭い町を一望出来る丘の上で、青年は荒れた呼吸を整えながら崖際に立った。
闇の淵のように広がる眼下に、町の光が瞬いている。
沢山の光の集合体は駅前だ。そこから、まるで流れる川の水のように点々と続く県道があり、幾つかに枝分かれる光は途切れたり紛れたりしながら、町の形を描いている。
少し離れた、あれは隣街の繁華街だろう。
じゃああの小っさいのが、トーキョーか。
真っ暗な場所から眺めていると、この町もあの街も、俺らみたいのがたくさん居る街も、違いのない、ただの光の集合体だ、と青年は思った。
沢山の人が生きて、登って、手を取り合って、笑い、でも落っこって、泣いて、諦めて、でも助けられて、だから生きて、そうやって毎日を積み重ねている、ただの光の集合体だ。
光の粒を眺めていると、青年は不思議と心が軽くなっていった。何を悩んでいたのだろうと、笑いが漏れてしまうほど、自分がバカに思えた。簡単なものをこねくり回して難しくして――。
俺、何してんだろ。
ぐるぐると思考する頭を、青年は暗い淵に投げ棄てた。そして、随分遠くまで来てしまった道を、少年の元へと駆け帰った。