「僕、皇子さんのことが好きですっ!」
「ごめんなさい」
間髪入れずに彼へ答えを返す。白井は自分が何を言われたのかわかっていないように、キョトンとした顔でぱちぱちと瞬きを繰り返す。数秒の沈黙が流れてようやくその意味を理解したのか、白井の焦げ茶色の瞳が潤む。
「……えっ」
「私、まだ恋愛とか興味ないんだ。来年引退するまでは部活に集中したいし……だから、ごめんなさい」
デジャヴを感じる、今までと全く同じ断り方。彼には悪いと思うが、曖昧な返事で好きでもない人と付き合うよりかは断然良いと思う。それに私は、どうしても生きた人を好きになることはできない。
「……やっぱり、僕じゃダメなんだね」
白井は両手で拳を握り、先程とは違う弱々しい声で言った。今にも泣き出しそうな顔で自嘲する彼に、告白したのが白井だから断ったわけではないと否定の言葉をかけようとしたとき。
「——ねぇ、なんで僕を殺したの?」
まるで、この教室の空間が周りから隔離されたようだった。廊下や校庭から聞こえる声が遠くなり、白井の悲しそうな声が頭の中で冷たく木霊する。
殺した? 白井を? ……私が?
白井の先程とは違う表情で、それが冗談などではないことを悟る。その瞳に込められたものは強い悲しみと、怒り。
——あぁ、そうか。白井も覚えていたんだ。
面白いことなんて何もないのに笑いが込み上げてきて、口元に右手を寄せて口角を上げる。突然声を上げて笑い出す私を見て、白井は目を丸くさせる。
「……何が、そんなに面白いの?」
「はははっ。わからない。わからないけど……ふふっ、そうだったんだ。覚えてるの、私だけじゃなかったんだね」
「やっぱり白井さんも覚えてるの? なんで、どうして僕を殺したのっ⁉ あんなに好きだって……愛してるって、言ってくれたのに!」
白井は眉を寄せて私の両肩に掴みかかってくる。その拍子に背中が勢いよく窓の縁にぶつかり、背筋に鈍い痛みが走る。
「ねぇ、なんでっ⁉ 僕のこと、嫌いになったの……っ⁉」
「……ううん。好きだった。愛してたよ」
そう微笑んで、白井の歪んだ顔へと手を伸ばす。割れ物を扱うように優しく白井の頬を撫でて、その目尻に溜まった涙を人差し指で払う。
「でもね。それは貴方じゃなかった」
「え……っ?」
白井の口から乾いた言葉が零れ落ちる。私は窓の縁に背中を預けたまま目を閉じ、脳内に押し込んだ記憶の扉を開く。生まれた時には既に刻まれていた、誰かの……私の記憶。