小説

『Don’t eat me?』鍛冶優鶴子(『黄泉平坂の話』『古事記』)

「おかえりなさい、望人さん。もう大丈夫よ」
「望人くん、おかえり。辛かったね」
 男は後ろを振り返り、畳の上に残した指輪を見つめた。死者の国まで供をし、こうして別れを告げたのだから、この先妻に縛られて前に進めなくなることはもうないのだろう。それでも妻が自分から一歩遠のいていったことが苦しく、男は再び涙を零した。

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