カナメちゃんはなんだか泣きそうになりながらそう言った。あたしは、そうか、そういう他人との小さな、けれど本人にとってはとても大きな違いが、カナメちゃんをこんなに苦しめているんだ……と、なんだか恐ろしいような気持ちにさえなった。
「私、クラスの子たちに一度、今渚ちゃんに言ったことを打ち明けてみたことがあるのよ。けれどみんな、困ったように笑いながら、カナメはいい子だねーって。普通そこまで考えない、本人もきっと、そこまで気にしていないって、そう言うの。私は、痛いくらいに抱えていた自分の想いを、誰かに否定されるのが酷く恐ろしくて……もうそれ以上、何も言えなかった」
「そう……そっか」
上手な言葉が見つからず、あたしは黙り込んでしまった。
「大げさだってみんな笑うの。けれどきっと大げさなんかじゃない。そういう、無意識に発せられる、とびきり鋭い針のようなものが、いつかどこかで、しかも本人の気づかないところで、きっと誰かを殺す。私はそう思う」
しん、と狭い部屋の中が静まり返る。殺す、なんて言葉がカナメちゃんの口から飛び出てくるなんて夢にも思わなかったので、あたしは思わず圧倒されてしまった。
「私……それから、教室に居ると呼吸が上手にできなくなってしまったの。海の中に放り出されたみたいに」
「そっかあ……ごめんね、私、全然気が付かなかった」
項垂れるあたしに、カナメちゃんはハッとしたように顔を上げた。
「ううん、全然! むしろ、渚ちゃんが元気に笑っていたり、グラウンドを走り回っているのを見かけると、私、すっごく元気になったんだよ。不思議ね」
「なにそれ」
「本当、なんだろうねえ」
くすくすと、あたしたちは笑い合った。
あたしにはいつも、カナメちゃんは何か決定的な理由を探しているように見える。学校に行く理由、家にいる理由――もっといえば、今ここに存在している理由。
「カナメちゃんは、みにくいアヒルの子なんじゃないかな」
「え?」
「だから、あるでしょ、そういう御伽噺が」
あたしは言った。
「自分が、周りの人とちょっと違って、おかしい、苦しい、って思っているわけでしょ。でもそれは、カナメちゃんが実はアヒルの子なんかじゃなくて、とびきり綺麗な白鳥の子だから、周りと違っただけなんだよ」
「……なにそれ」
「あたし、カナメちゃんのそういう綺麗なところ、好きだよ。うーん……具体的にどこがどう綺麗、とはうまく言えないんだけどさ」
「……ふふ、変なの」
カナメちゃんは笑った。泣きそうでもあった。