「今まで育てていただきましたが、僕はあなたたちの期待通りの人間ではありませんでした!あなたたちの言う桃の力も、何の力も持っていませんでした!」
思っていたことを言葉にすると、堰が切れてしまったかのように、涙がどっと出てきた。
喉のあたりが苦しくなったが、それでも僕は続けた。
「僕はこれから旅に出ます。旅に出て、何かを成すかもしれないし、何も成さないかもしれない。でもそれが僕なんです」
彼らは僕を見つめて何も言わなかった。期待外れでがっかりされたのかもしれない。
でも僕は、もうそれに惑わされたくない。
「あなたたちには育ててもらった恩があるので、僕は僕が出来る限りの恩返しをするつもりでいます。でも僕はもう、僕の人生を生きます」
僕はきっぱりと言い切った。
おじいさんとおばあさんは、やはりしばらく黙ったままでいたが、僕は彼らが涙目になっていることに気付いた。そして、おじいさんが、
「そうかい、悪いことをしたのう」
と鼻水をすすりながら言った。
僕は、今まで育ててやったのに、と怒られるかと思っていたが、僕を育ててきたのは好きでやってきたことだから、と言って、彼らは僕を責めたりしなかった。むしろ、ずっと辛い思いをさせてきて申し訳なかったと何度も謝られた。
「お前が桃から生まれた時、それはとてもうれしくってねぇ。私とおじいさんは手を取り合って喜んだんですよ」
おばあさんは懐かしそうな顔をして言った。
「お前は本当に可愛くてのう。奇跡だと思った。わしらにとって特別な子だと思ったんじゃ。それが、いつの間にか、お前が桃から生まれたから特別だとか、特別な力を持っているだとか、おかしな期待にすり替わってしまっていた」
おじいさんもその頃のことを思い出しているようだった。
血は繋がっていないけれど、僕のことを心から大切に思っていると、おばあさんが言った。いつもここで待っているから、いつでも帰ってこいと、おじいさんが言った。
彼らの言葉で、僕の心は満たされた。
そして僕は旅立った。僕の人生が、始まった。