小説

『シー・サイド』永原はる(『浦島太郎』)

 カウントダウンが、迫っていた。私は、アリサの目を見つめた。
「なに?」
 それから、両手で彼女の頬に触れる。これまでの人生、私は何一つとして願った事が無い。だから、一つくらい許してよ。そう思った。
「愛してるわ」

 シャッターが切られた。その瞬間、私は彼女の唇を奪っていた。

 波音が聞こえる。世界と、海と空の境界が描かれていく。止まっていた時間が、動いた気がした。

 そうして、私は。
 アリサと私の、これからと、これまでを、永遠の中に閉じ込めたのだ。

1 2 3 4 5