小説

『ななつ山』はやくもよいち(『杜子春』)

樹木の神コダマは、許してやってもいいのではないか、と説得を始めました。
「なぜ子どもまで連れて来たのです」
「知れたことよ。おきてを破った者と一緒にいたからだ」
「母親は山の宝を割ってはいません。子どもには罪がありません。やりすぎです」
コダマがなじると、ヤマヒコは「ふんっ」とそっぽを向きました。
細いまゆがひそめられます。
コダマはいろいろと考えをめぐらしているようでした。
「答えなさい、陽人。木霊は何回、聞こえましたか」
いきなり名前を呼ばれて驚いた陽人でしたが、必死に思い出して答えました。
「ろ……、6回です」
「7回だったぞ!」
ヤマヒコが声を張り上げると、コダマは首を左右にふりました。
「大きな声を出さないで。最初の一回は石を叩いた音で、山々に当たって跳ね返ったのは6回でした」
「つごう、7つではないか」
コダマはヤマヒコを横目で見て、わざとらしく、「ふむふむ」と声を立てました。
「どう? 『ためし』を行なってみては」
「ためしだと? 誰を? 子どもの方か。その必要はないぞ」
「でもそれで、白か黒か、はっきりするでしょう」
「音が6回だろうが、7回だろうが関係ない。山のおきてを破ったこと、それ自体が罪なのだ」
そのあと神様どうしの話し合いは長く続きましたが、コダマがねばり勝ちました。
「好きにするがいい。結果はどうせ同じことよ」
背中を向けてしまったヤマヒコを尻目に、樹木の神が「ためし」について語ります。
「この石に見覚えがありますね」
広場の真ん中に、ひと抱えほどの岩がこつぜんと現れました。
コダマは平たい岩の台に、ママが叩いたあの石を置きました。
「石を守りなさい、陽人。石は叩かれるたびに大きな音を立てます。7回叩かれて、7つ音が響けば、お前の負け。罰を受けてもらいます」
「僕が、石を守るの?」
「お前の母親が、罪に問われているのです。人の言うことに耳を貸さず、すすんで山のおきてを破ろうとしました。でも、もとを正せば、お前のためにしたことでしょう? 母親がゆるされるか否か、ためしを受けるのはお前の役目です」
「石を守るって、何をどうすればいいの。やり方を説明してよ」
岩の上でヤマヒコが、「始めるぞ」と声を上げ、両手をばちんと打ち合わせました。
火薬がはぜたような音に、陽人は思わず目を閉じ、肩をすくめます。
「ヤマヒコ、子供をおどかすのはおよしなさい」
ふと気配を感じて、陽人は顔を上げました。
すわり込んでいたはずのママが、中央に置かれた岩の前に立っています。
うつむいているので、顔は見えません。

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