紙飛行機のひとつだけ。折り目がだらしなく開いて飛行機の形をなくして中に書いた言葉が見えていた。
<君はぼくに教えてくれた。高く飛ぶように深く沈めと>
これは、志麻の言葉ではない。フェルナンドさんがある映画の主題歌の歌詞についてインタープリター付きで話してくれた時のものを志麻が綴ったものだった。ひとりの男の子が空に向かった視線をふいに海に投げかけてダイビングする、あのうつくしいからだの曲線が忘れられないって言った彼の口笛の調べを思い出す。そして今ふたりの間には海があった。
まざまざとあおい。あおすぎるせつなのものがたりが、だれにでもひとつはあるような気にさせられて。そらもうみもひとも。出会ってしまうと、もうであったことがなかったことにはならないことになる瞬間が、あることを志麻は痛いぐらいに気づかされていた。