小説

『酔漢リターン』平大典(『月下独酌』李白)

「お前がそこまで言うんだから、もう一度山に行ってくる。鬼に会って、話をつけてくる」
「なんだって?」
「だから、お土産の酒瓶をひとつくれ」


***


 結局、おじさんは酒瓶を持って山に登ったきり、帰ってこなかったよ。
……ああ、そうだ。お前の言う通り、酒を盗む奴もいなくなったんだ。
 おい、そんな顔するなって。おじさんが犯人とも言い切れないしな。
 じゃあ、そろそろ俺は出かけてくるよ。
……え、その酒瓶はなんだって?
 満月の夜には、裏山に持っていくんだ。
 おじさんへの供養だよ。
 でも、不思議なんだよ、瓶を変えに行くと、前の酒瓶は空になってんだ。
……落ち着けよ。俺にはもうわからないよ。
 盗人がいるのか、鬼がいるのか、おじさんがまだ生きているのか。
 それとも、俺が飲んでいるのかもしれんね。

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