家族みんなで息を呑んだ。
「鬼の親分は、酒呑童子っていうんだ。酒が好きなんだから、鬼に決まっているだろ」
親父がため息を吐いた。
「……根拠になっちゃいないよ。お前だって酒がすきだろ。お前は鬼か?」
「そんなわけないだろ。俺は人間だ。昨日だって酒は必要だから、飲んだんだ。鬼に飲めって言われてしかたなくさ」
「お前はいつも飲んでいるだろ?」
「あれは、身体を温めるためさ」
親父はやはりため息を吐いたよ。「鬼ってさ、見た目はどうだったんだ」
「鬼だもん。角があって、牙があってな。まあ怖い風貌だったよ。でも、そう言う奴に限って話してみるとノリがよくてな」
親父は腕を組んだ。
「お前は阿保なのか? そんなもん、見間違えかなんかだろう」
「そうなのかな」おじさんは頭を捻る。
「で、もう一人は誰だったんだ? 三人で飲んでいたんだろ」
「いや、それが思い出せなくてな」おじさんは頭を抱える。「でも、飲みっぷりはよかったぜ。俺と同じペースで飲み続けるんだよ」
「まさかだけどよ」親父は眉間に皺を寄せた。「お前、その人は途中参加だったんじゃないか? ……けっこう飲んだ後に」
おじさんは手を叩く。「そうだ。よくわかったな」
「暖炉の火でできた自分の影を見間違えていたんじゃないのか?」
「いや」おじさんは頬をかいた。「そこまで酔っぱらっていたのかね、俺は」
「ていうか、百歩譲って鬼と飲んだとしようか」
「だからそうだって言ってんだろ」
「話の骨を折るな」親父はたしなめた。「その鬼が、この集落から酒を盗んでいた犯人なのか?」
「多分そうだろ」
「多分ってなんだよ? さっきから人を煙に巻いたような話しばっかしやがって。大方、タダ酒飲むために山に行っていたんだろ」
「わかったよ!」
おじさんは我慢できない様子で、立ち上がった。
「どうするんだい?」