「そ、それはなんというか、ごめんなさいね。私のせいで」
「逃がす判断をしたのは俺自身なんで、もういいです。俺はこのまま森を抜け国境を越えて、追手が来ない外国に行くつもりです。あなたはどうしてまだここにいるんです? 俺が逃がしてからもう一日以上経っているでしょう。城の人間に捕まって死にたくなければさっさとこんなところは離れて逃げたほうがいいですよ」
「それがね……」
白雪姫は、小人の家での出来事を狩人に話した。
「カッとなって出てきてしまったけれど私、こんなに自分が役に立たないなんて知らなかったわ」
今さら落ち込む白雪姫を見て、狩人はありえないという顔で口を開いた。
「森の中の小人の家にいたなんて。こんな近場に留まっていたら遅かれ早かれ王妃様に見つかりますよ。あんた馬鹿ですか」
「ば、馬鹿とまでは言わなくても……わかったわよ。あなたみたいに国外に逃げるわ」
けれど急に不安になった白雪姫は眉を八の字にしてうつむいた。
「国外かあ……。私、お金も持ってないの。どうしたらいいかしら。小人さんたちのところみたいに家事をする代わりに家に置いてもらう作戦はもうできないし……」
「家事ができない代わりに何かできることは?」
狩人に質問されて、白雪姫は首を傾げた。
「えーっと……基本的な読み書き計算と外国語。それから歌にダンス。それくらいしかできないわ。役に立たないでしょう?」
「いいや、そんなことない。どこかの家の家庭教師になってもいいし、通訳や翻訳家でもいい。歌の先生やダンスの先生でもお金は稼げるんじゃないですか。家事ができない、役に立たないって落ち込まなくても、自分のできることで食べていけばいいんですよ」
「……そうね。ありがとう」
励ますようにそう言われると、なんだか落ち込んだ気分が元気になっていくような気がした。
「ねえ、一緒に行ってもいい?」
「国外へ?」
白雪姫の申し出に狩人は目を丸くした。だってせっかく逃げるという目的が同じなのだから、一緒のほうが心強い。
「一緒にいてくれるほうが安心だもの。それにあなた、森でもどこでも一人で生きていけそうなくらい生活能力ありそうだし。私でも生きていけるように道すがらいろいろと教えてもらえると嬉しいわ。この美味しいスープの作り方とか」
「まあ、別にいいですよ」
「本当? ありがとう! じゃあ明日からよろしくね」
これからどうなるか全然わからないけれど、ひとまず独りぼっちではない。誰かがいてくれるというのはこんなにもほっとするなんて。
翌朝、無事に獣に襲われることなく朝を迎えた二人は一緒に森の中を進み、やがて国境を越えた。王妃は魔法の鏡によるとまだ生きているらしい白雪姫と捕らえそこねてしまった狩人を、城の者を使って捜索したが、ついに二人は見つからなかった。