小説

『彼女は家事ができない』中村ゆい(『白雪姫』)

「というか台所から異臭がするんだが、なんとかしてくれよ」
「できないならできないって最初に言えばいいじゃないか。騙しやがって」
「ほんと、役立たずの姫さんだな」
 口々に文句を言う小人たちに、白雪姫はぷちんと切れた。
「だって仕方がないじゃない! 私はずっとお城で暮らしてたのよ! 料理も洗濯も掃除もぜーんぶ、召使いがやってくれてたの! それを突然、女だからって理由だけで家事をやれって言われてもね、無理なもんは無理なのよ! 誰が女なら家事ができるって決めたわけ!?」
 眉を吊り上げてまくしたてる白雪姫を前に、小人たちは呆気にとられた。そして、小人のうちの一人が怒って家のドアを指差した。
「家事ができないのは事実のくせに逆切れするような女の子を置いてやる義理はねえ。出ていってくれ」
「ええ、ええ、出ていきますとも! さようなら!」
 こうして白雪姫は小人たちの家を飛び出した。

 白雪姫はぷんすかと腹を立てながら、すっかり夜になってしまった森を歩いていた。もちろん今さら意地悪な継母のいるお城に戻るつもりもないし、このまま野宿するしかない。
 しかし、暗闇の中の森は想像以上に恐ろしかった。木々の向こうは真っ暗で何も見えないうえに、ときおり吹く風の音もなんだか不気味だ。そして、いつ闇の中から森に住む獣が飛び出してきて襲われるかもわからない……。
 無防備なまま小人たちの家を出てきたのは早まったかも、と不安になりかけていたとき。
 暗闇の向こうに明るい光が見えた。
 何かしらと思って白雪姫が近づいてみると、光の正体は焚き火だった。火の前に座っている誰かの背中も見える。
 白雪姫が話しかけようとして足を踏み出し、かさりと落ち葉を踏むと、その人物はぱっと振り向いて白雪姫に銃を向けた。
「誰だ!」
「きゃあ!」
「……あれ? 白雪姫様?」
 よく見るとそれは、森で白雪姫を殺さずに見逃してくれた狩人の青年だった。

 狩人は、焚き火でイノシシのスープを煮込んでいた。
「さっき仕留めたんです。食べますか?」
 白雪姫は狩人からスープを受け取って彼の隣に座った。やはりこの森はイノシシやら獣が出るらしい。一人でいるときに襲われなくて良かった。
「ところでどうしてあなたはここにいるの?」
「白雪姫様を逃がしたことが王妃様にバレて殺されそうになったから逃げてきたんですよ。あのときあなたのお願いをころっと聞いてしまったからこんな目に、くそっ」

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