「もちろん。簡単な修理をするから、うちに呼ぶといい」
30分後、孫娘と親友は「クールに戻った」安心ギアを着け、満面の笑みを浮かべながら公園へ出かけた。
私が施した改造は、決してロジックを書き換えるものではない。参照するデータの精度を上げ、児童立ち入り禁止エリアの半径を小さくしたのだ。犯罪歴を持つ人々のプライバシーを守りつつも、孫娘が公園へたどり着くルート選択が可能になった。
美咲は家に戻ってくるなり、私にハイ・ファイブを求めてきた。
「おじいちゃん、すごい! ユー・クール」
とても誇らしい気分だった。
私はその後、孫娘の友だち数人の安心ギアを改造した。するとどこからどう噂が広まったのか、安心ギアの改良について多数の問い合わせが来るようになった。
それら全てに対応するのは面倒だ。私はアプリ化した修正パッチを無料で配布した。
すると思いのほかに人気が出て、格付けサイトで「絶対使える! おすすめアプリ」の第1位となった。
紆余曲折はあったが、私のアプリは1年後には公式な修正パッチとして認められた。次年度からは、修正済みの安心ギアが配布されている。
美咲が二年生の初夏、不審者が児童に接近する事例が何件か続けて発生した。通学路、公園、塾帰りなど、時間や場所は様々だった。
問題は、いずれの児童も安心ギアを使用していたのに、役に立たなかったことだ。
「また外で遊べなくなっちゃうの?」
孫娘に悲しい思いをさせてはいけない。私は独自に原因を調査した。
その結果、児童が安全な場所にいる場合、要注意人物が近づいても安心ギアは無反応だということが判明した。
人は自由に移動する。不審者の居住地を避けただけでは、安全を確保できないのだ。
「より高度なデータへのアクセス権を下さい」
私は警察へ出向き、口頭と書面で正式に申し込みをした。児童に接近することが望ましくない者の現在位置を、GPSや携帯電話位置情報でリアルタイムに特定する必要があるからだ。
回答は、「ノー」だった。
想定どおりの対応だが、諦めてはならない。美咲のためだ。データを提供してくれないのなら、勝手に貰うだけだった。
1か月掛かったが、私は安心ギアのアクセス権を書き換えることに成功した。
これで孫娘に不審者が近づくと、一定の距離を保つためのガイダンスが表示されるようになった。プライバシー保護のため、誰が危険人物かは表示しないようにしている。
「おじいちゃんの孫でよかった」
孫娘のひと言で疲れは吹き飛んだ。ちょいと危ない橋を渡ったが、結果オーライだ。
この修正アプリもまた全国の保護者からの熱烈な支持を受け、全ての安心ギアにインストールされることになった。
美咲が三年生のとき、大変なことが起きた。私と同じ歳の男性が運転する乗用車が暴走し、歩道にいた孫娘にぶつかりそうになったのだ。