「まぁそこはあまり重要じゃない。僕は先祖代々から受け継げられているわらしべ魂を叩き込まれてきた。だから僕は観音様ではないけれど人が切に願っていることは耳で聞かなくても心に聞こえてくるようになった。だから僕は君を助けたいと思った。」
いろいろと理解が追い付かない。
イケメン下を向く僕の顔を覗き込んできた。
「君が変わりたいという願い、僕も手助けをすることができる。いいかい、僕の言うことを聞くんだ。親切になること。物を大切にすること。気持ち次第で人は変われる。それだけだ。」
「なにそれ。これやっぱ返すよ。」
「いいかい、君は肌身離さず持っているんだ。」
イケメンは僕の手を握り、
「僕のハーフパンツ。大切にするんだぞ。それと、僕の名前は藤藁だ。よろしくね。麦野君。」
イケメン、藤藁の迫力に負けてしまい断れなかった。そういえば、僕はクラスメイトの名前をあまり知らなかったことに気づいた。隣の席でさえ知らないとはどれだけ自分が殻に閉じこもっているかが分かった。帰り道、中庭を歩いていると、一人の女子生徒の叫び声が聞こえた。美術部員が中庭で絵を描いている。
「ごめん。みか大丈夫?私こんなとこにバケツあるなんて知らなくて。」
「大丈夫だよ。帰り恥ずかしいけど。」
「スカート、クリーニング出すよ。」
ちょうど前を通り過ぎてしまい、女子部員のミカらしき人と目が合ってしまった。すぐにそらしたが、何となく放っておけず、身体が先に動いてしまっていた。
「どうかしましたか?」
「絵の具洗ってたバケツ、間違って倒してしまったんですけど、ミカにかかっちゃって。」
ミカのスカートは結構派手な汚れ方をしている。
「あ、あの、ハーフパンツありますけど使いますか?」
男子だし、汚れてはいないけどどうせ断られるだろうと思った。まあ、他人のハーフパンツだし、断られても傷はつかない。僕のじゃないし。
「え!いいんですか!?助かります!」
「よかったね!ミカ。」
何度もお礼を言われた。人に感謝されるのも悪くない。
次の日、ミカがうちの教室に来た。ハーフパンツに「B-1藤藁」と書いているのを頼りにしたのだろう。僕なんかよりイケメンに会う方が喜ぶだろう。彼にもハーフパンツを返せるしちょうどいい。藤藁はミカと何か話をした後、すぐに僕を呼んだ。
「昨日はありがとうございます。藤藁さんからいろいろ聞きました。ハーフパンツありがとうございます。それと、これ、昨日クッキー焼いたんですけど、もらってください!」
そういって一礼すると、ミカは行ってしまった。