小説

『わらしべ高校生』緑(『わらしべ長者』)

 いつものように教室で本を読んでいると、騒がしい男子が僕の机にぶつかった。
「おっと、ごめん。」
「あ、すみません。」
 なんで僕が謝ってしまうんだ。
 高校生活が始まってから、もうすぐ一学期が終わろうとしている7月。僕はいまだに友達と呼べる人物がいない。ただ騒がしい教室の隅の席で一人本を読んでいるだけ。
 誰とでも仲良くするような安い男ではなく、クールで一匹狼だけど学校一の兄貴的存在になりたかった。だからいつも静かに本を読んで過ごしていたら、いつの間にかクラスにはグループができていて、僕は本ばかり読んでいたので孤立してしまった。今では一匹狼どころが、自分は悪くないのに何となく謝ってしまう小心者のウサギのようになってしまった。このまま友達もできずに三年間を過ごすのは嫌だ。いつも一人でいる自分が否定されているようで、この教室にいることが苦痛だ。

 昼休みになると、必ず図書室に逃げ込む。教室では、僕の席は隣のイケメンとその取り巻き女子たちが僕の机を占領するからだ。

「こんにちは。麦野君。今日ね、新しい本が入ったの。」
「あっ。うん。そうなんだ。」
 唯一僕に話しかけてくれる女子。桜栞さん。サラサラの黒髪ロングで、色白の肌。授業中だけ眼鏡をかけているそのギャップも可愛い。
 僕に話をかけてくれているというのに僕はいつも緊張してうまく話せない。栞さんは図書委員だ。僕が図書室に来ると必ず話しかけてくれる。教室では一切話したことはないが、図書室ではまっすぐ僕を見て話しかけてくれる。昼休みは図書室にあまり人が来ないので、栞さんと僕だけの世界に包まれる。

 「次体育だから今日は早めに閉めちゃうね。麦野君もそろそろ行った方がいいよ。」
 そういって栞さんは図書室に鍵をかけた。

 体育の時間は地獄だ。なんせ、ペアを作れという無謀な指令を教師が出すからだ。サッカーのパス練習なんて必要ない。一人でドリブルをする練習をした方が運動になる。何より、僕にそんなペアになってくれる人間などいない。よりによって今日は男子が奇数だ。きょろきょろとあたりを見渡しても、かわいそうだから、いや、仕方なく組んでやろうという善意のある人間はいない。
 「すみません。体調すぐれないんで見学します。」
 あっさりと教師は許可してくれた。だがこれが教室で取っ組み合いをしていたお調子者の男子だとネタにされなかなか許可をしてくれなかったりする。こういうときだけ自分がいじりにくそうな真面目風根暗であってよかったと思う。

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