小説

『G線上あるいはどこかの場所で』もりまりこ(『浦島太郎』)

「そう。あれ。竜宮デパートで玉手箱を渡してみたかった。開けるよねどうにもこうにも。開けたいよね」
 とかいってる間に僕は玉手箱を開けた。案の定白い煙がむわっと出てきて、それを吸い込んだところまでは記憶があった。でも目が覚めた時、そばには亀之助もいなくて。おまけに僕は老人でもなかった。あの時玉手箱を開けたのはいっそ年老いて、この人生のレースからドロップアウトするのも悪くない。それって夢の展開って思ってたのに。話がちがう。

 僕がいたのはあの日と同じ放課後の教室だった。ドアがガラガラガラって開いた。靴の底を引きずりながら入って来たのは東山先生だった。今日読む本はねって言ってるとバタバタっと誰かがやってきた。複数の上履きのラバー音。
 ドアを勢いよく開けたの、あのアルハンブラ君とデボラさんだった。

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