小説

『醜悪』軽石敏弘(『みにくいアヒルの子』)

 しかし、私は気づいてしまった、私たちの写真があなたたちの目に触れること日は決して訪れないことを。なぜならわたしたちは醜いから。
 わたしたちの醜い姿は、あなたたちの心の奥底に潜む、その醜さを思い出させる。そしてあなたたちは自分の心の醜さが暴かれることを何よりも恐れている、だから醜い私たちが存在することを許さない、あなたたちの美しい世界を守るために。

 私はいずれあなたたちの手によってこの世界から消される運命にある。
 しかし、私はそんなあなたたちを決して憎むことはしない。なぜなら私は最後の最後に、残された父の記憶と繋がることができたから。そして父だけが見ていた世界の真実を知ることが出来たから。

 父が残してくれた世界の真実、それは《おぞましい悪夢》や奇病など最初から存在していなかったということ。人が醜い化け物に変貌したという事実など存在していなかった。少なくともわたしの父の目には、醜いと恐れていたあなたたちの姿は本来あるべき人間の姿として映っていた。
 あなたたちが醜いと忌み嫌っていたあなたたち自身の姿は自分たちの醜い心の現れだった。ただそれだけだった。
 しかし、虚栄心と傲慢さに狂わされ真実を見失い、自分を偽りつづけた果てに魂すら手放したあなたたちは、どれほど望もうとも、もう二度と自分たちの真実の姿を見ることはできない。なぜなら、この世界で誰よりもあなたたちのことを愛し、唯一真実の世界を見ることが出来た私の父をあなたたちは殺してしまったから。

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