小説

『おぶすびころりん』室市雅則(『おむすびころりん』)

 しかしながら、二回連続このような結果だと自信がなくなって来た。とはいえ、まだたった二回目だ。
 こんなことでくじけていては幸せを掴むことはできない。
 三度目の正直を目指して、辺りをキョロキョロし始めた。

 薄暗くなってきた頃、少し日に焼けたナイスミドルが現れた。
 この感じだと奥さんがいるだろう。しかし、それでも構わない。ほんの束の間で構わない。優しさに触れたい。
 緊張をしてきたが、ナイスミドルとの距離が近づいた所で転んだ。
「きゃっ」
 はっきり言って最高のタイミングだった。
「大丈夫ですか?」
 顔を上げるとナイスミドルと目が合った。そして、彼は手を差し伸べてくれた。
「すみません」
 私はその手に頼って立ち上がる。左手を見るとその薬指に指輪ははまっていなかった。
「がっつり転んでいましたね。ケガとか大丈夫ですか?」
「あ、はい」
「そうですか。良かった。それじゃあ」
 近くで見ると、浅黒い肌は艶が良く、思っていたよりも若いかもしれない。
「あ、あの」
「はい?」
 勇気を出している風(本当に出しているのだけど)に誘い文句を伝える。
「お礼にお茶でもどうですか?」
「え? お礼って言ってもあれですし。妻と待ち合わせしているんで。お大事に」
 がーん。結婚していたし、きちんと妻を愛していた。
 しかし今回初めて、声をかけてもらえ、手を差し出してもらえた。
 もしかしたら、私は自分が思うほど、ブスでないのかもしれない。
 ありがとうナイスミドル。ちょっとだけ、勇気出た。

 勇付いた私は、それから何度も転んだ。
 だけど、確率としては半分以上が声をかけてくれ、手を出してくれた。残りは声だけかけるか、見向きもしない。
 こうやって自分で実行して初めて実感したことだが、案外、世の中優しい人が多いのかもしれない。
 そして、私がわざとこんなことをして、人の手と時間を煩わせていることは棚に置いて、人の優しさに私の胸の内側は毛布で包まれたみたいな温度を感じ始めた。
 自分で自分の枠を勝手にはめているだけで、世界には意外と可能性が転がっているのかもしれない。
 ブスがブスと思って、引っ込んでいて何になる。心までブスになってどうする。少し図々しくなって、夢を見て、表に出たら、ほんの少しだけ私は変わった。人に迷惑かけたし、ちっぽけだけど、今朝の私とはやはり違っているはずだ。

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