思ってもいない言葉が俺の口から溢れた。自分でも驚いた。きっとこれは、俺じゃない。俺を通して誰かが放った悲しい言葉だ。でもそれを説明することは俺には難しかった。うまく頭が働かない。セックスしたい。何も考えたくない。
きっと彼女は引くだろう。俺を振り切って、変なやつだって警察に突き出すんだ。俺、犯罪者になっちゃった。どうしよう。本当は死にたくないんだけどなぁ。まだまだこれからのお年頃だよ? 恋がしたかっただけなんだ。君と。いいや、君じゃなくてもよかった。最低だ。そんなのわかってる。寂しい。寂しかった。
真夜中の公園をぶらぶらと歩いていた。スマホも財布も家に置いてきた。川瀬さんは俺を突き飛ばしたり、変人扱いしなかった。哀れんだのだと思う。振り返った川瀬さんに思い切り抱きしめられて、頭をよしよしされた。彼女の胸はお世辞にも大きいとは言えなかった。俺が恋した風俗店の女とは似ても似つかなかった。なぜかわからないけど俺は泣いていて、泣きやむまで彼女は俺に付き合ってくれた。彼女の寛大さのおかげで俺は犯罪者にならなくて済んだ。
「佐野。どうしたの、こんな時間に」
宮地は優しいのだ。こんな真夜中の呼び出しにも宮地は文句も言わずきてくれる。家で連絡を入れてからすぐスマホを投げ出し出てきたので、確証はなかった。何度も連絡入れたんだと言いながら、心配したような顔をして俺を見る。ごめん、と一言謝ると、別にいいけどと返される。お前は俺に甘い。
「フラれました」
「…………」
「いきなり抱きしめたら泣いちゃった」
「……そりゃ泣くわ」
俺がね、とは言えなかった。きっと説明したところで宮地には理解し難いだろう。だけど、読書好きの宮地なら、きっとうまいこと噛み砕いて理解してくれようとするんだろうな。
「なぐさめて」
「いやだよ。次の恋を探しなさい」
「お前が探すんなら、探すー」
「はいはい」
どこへ向かうあてもなく歩く。いつものように交わされる言葉たちはいつもながらふわふわしている。俺はこんなふうにふわふわとしか生きられない。つまんねー男。セックスしてーって身体が叫ぶ。最低だな。
「なに、」
宮地は驚いて手を引っ込めた。俺から手を繋いだのだ。もう一度その手をつかまえて握りしめる。俺は歩みをとめない。宮地がとまっても、とめない。宮地を引きずるように俺は歩く。
「手ぐらい繋げる」
俺は照れを隠すようにぶんぶんと繋いだ手を揺らした。小学生に戻ったような気分だった。宮地はどうかわからないけれど。たぶん、違う。宮地は俺とは違う。暗闇の中で鼻をすする音がした。