彼女は、そそくさと床に散らかったカプセルを広い集めている。
――待てよ? 右から3列目の一番下って
黒谷の目の前にあるガチャガチャは、ハジメが目当てに来ていた物だった。
「黒谷さん、もしかして、『ラブ☆バンド』好きなの?」
彼女の手が止まり、目が泳ぐ。明らかに動揺した様子だ。
「そ、そんなわけ、弟が好きだから誕生日に渡そうと思って、」
――気まずい。本当なのか?嘘か?沈黙の時間が流れる。
「あ、僕も、いい?」
思い出したように、ハジメがガチャガチャに近づく。黒谷は、素直に場所を譲った。
ハジメは、先ほど黒谷がしていたように屈み込み、シンプルな黒い革製のコインケースから取り出した百円玉を三枚、金具の窪みに押し込む。
目を閉じて、ゆっくり深呼吸をしながらレバーを回した。
黒谷も、その様子を横から静かに見つめている。
ハジメが緑色のカプセルを取り出すのと同時に、耳の近くで叫び声がした。
「わっ、ミレイちゃん!」
ギョッとして黒谷を見ると、
「初めて緑色のカプセル見たー!」
カプセルを見つめる目が輝いている。
「黒谷さん自身が好きなんだよね?」
ふっと笑い、緑色のカプセルを黒谷に差し出した。
「僕、これ三個目だから」
複雑な表情でカプセルを受け取る黒谷が、声のトーンを低くして言った。
「絶っ対、誰にも言わないでよね」
まさか、そんな仕打ちって・・・・・・
でも、ミレイと気が強い所も似ているなんて、却って嬉しいかもしれない。
なんて考える僕は本当にバカだ。
黒谷は、緑色のカプセルを受け取り、そそくさと立ち去ろうとする。
すると、下りのエスカレーターに向かっていた足が、急に止まった。
「サンキュー、藤原くん」
ズキュン。照れた笑顔で言う黒谷さんは、まさにミレイそのものだ。
ハジメは硬直したまま、しばらくその場に立ちすくんでいた。
翌朝、緊張した面持ちで教室に向かうハジメ。
心臓が鳴るたびに、身体全体が振動しているような感覚だ。
そっと教室のドアの前に立ち、黒谷の姿を探す。
いつもの女子グループは、いつもの場所で騒いでいる。
ひときわ輝いて見える黒谷は、一目で見つけることができた。
ドアの前に人の気配を感じ、女子グループの一人がハジメを一瞥する。
釣られて他の女子も同様にしたが、すぐ会話の続きに戻ったようだ。
ただ、黒谷だけは、ハジメを睨むように見ると顎を少し上げる仕草をした。
・・・・・・こえー
いくら相手が可愛らしい女の子だって、威圧的な態度をとられると冷や汗が止まらない。
今のは、きっと、『絶対に言うな』という意味だと捉えて大人しく自分の席に着こう。