「なーんちて。ちょっと太郎さんを困らせてみたかっただけです。…太郎さん?」
おれはG子の細い腕を掴んだ。
「ちょ、ちょっと太郎さん!? どこ行くんですか!? …い、痛い!」
押し黙ったまま彼女を引っ張っていく。夕日に染まる公園を真一文字に横切る。
自分の部屋に戻ったおれは、G子を玄関に押し込むと後手に鍵を閉めた。静まり返った部屋に冷たい音が響く。彼女がビックと反応したのがわかった。
おれはG子を万年床に押し倒した。
「太郎さん落ちつてください!」
「……」
「あなたは今彼女さんにフラれてばかりで、少々気が動転しているだけです!」
「……」
「こんなのわたしの知る太郎さんじゃない…っ!」
「……」
「どうして黙ってるんですか!?」
ごちゃごちゃとうるさいその唇をふさいだ。
「……」
「……」
やってしまった…。
大賢者太郎は悟る。これは強姦である。
同衾する彼女の方を見られない。
「…別に妊娠するわけじゃないですから」
「すいませんでした!」
布団から飛び出して裸で土下座する。謝って済む問題ではないが、謝るしかなかった。
「…なんで謝るんですか?」
「…へ?」
「…わたしが望んだ以上のことをしてくれたんですよ? 恩返しにしては、返してもお釣りが来ます。ちょっと恐かったですけど…」
ため息とともに全身の力が抜ける。「へっし!」とおれはくしゃみをした。
「…そんなことよりもう少し隣にいてください」
おれが布団に潜り込むと、その下で彼女が腕を絡ませてきた。
「なあG子、一緒に住まないか?」
「なにいってるんですか。もう住んでますよ」
「それもそうだな」
ではこの場合、なんといったらいいか。
「…確かにもう住んでいるが、こそこそしないで同じ時間を共有したいんだ」
「夢みたいです」
布団の下、G子の手が離れた。
「…だから夢で終わらせましょう」
ガチャッという音に振り返る。
六畳一間の扉が半開きになって一人の子どもがこちらを見ていた。
おれの心臓がドクンと脈打つ。
「おいで」
G子のその一言で、子どもはパッと無邪気な笑みを浮かべ「ママー!」と彼女に抱きついた。
それを皮切りに風呂場からトイレから押入れから次々と子どもたちが現れる。全裸のG子に容赦なく群がる。
「あそうだみんなにお土産があるのよ」