考えもしなかった。こんな風におれのことを支えてくれる存在がいたなんて。
「じゃあ改めて。G子の料理、全部美味しかったです。ごちそうさま」
彼女はゆで海老みたいにカッと赤くなると、下を向いて小さな声で「…お粗末様です」といった。
「そもそもどうしてG子はおれのために料理なんか頑張っていたんだ?」
「今思えば人間に興味があったわけではないんです。わたしの関心は常にあなたに向いていた。その延長上に人間がいたに過ぎない」
「……」
「…太郎さん。ずっとお慕いしておりました」
だから人間の姿になって会いに来た。
「…G子、おれは」
「ああいいんです! そんなこと言われたって困りますよね! …ただ伝えたかっただけなんです! あなたの魅力に気づいている女がいるってことを! だからとにかく元気出してください!」
G子は捲したてるとバツが悪そうにそっぽを向いてしまった。
こんな風に異性に思いの丈をぶつけられた経験のないおれは、どうしていいのかわからなかった。
ただ一つわかったことはある。
「恩を返すのはおれの方じゃないか…」
「え?」
「G子はおれのためにずっと尽くしてくれてたんだな…。なんでもいってくれ。恩返しをさせて欲しい! さあ! さあ! さあ!」
彼女の肩を抱いて無理矢理こちらを向かせる。
少し困った顔をしていた。
「…こうやってお話をすることができただけで、十分わたしの願いは叶えられました。これ以上望んで、太郎さんに嫌われるのは耐えられない」
「嫌いになんかなるもんか!」
「それに大概のことはこっそり済ませているんです」
「大概のこと?」
「あなたの胸の中で眠ったり腕枕をしてもらったり…」
そういえば就寝時、全身をムズムズが駆け巡って目をさますことがあったなあと思い起こす。
「気持ち悪いでしょう?」
「気持ち悪いもんか! そんなことでいいなら幾らでも這い回ってもらって構わない!」
おれの本気よ伝われ! とG子の瞳を見つめる。
やがて観念したように彼女はため息をついた。
「…それなら一つお願いがあります」
ふっと、挑戦的な光がG子の双眸に宿るのを見逃さなかった。
「キスしてください」
ーーブチっとおれの頭の後ろで何かが切れた。