「…うれしい。頑張ったんです。太郎さんの好みを徹底的に研究して料理の腕も磨きました」
彼女は少し困った顔で笑った。
「でもGですよわたしは。もうどうしようもないくらいGです」
「……」
「少し外を歩きませんか?」とG子がいうので二人で、正確には一人と一匹で近所の公園をぶらつく。
ただ歩いているだけだというのに彼女は妙に楽しそうだった。
「Gの姿ではこんな堂々と往来を歩けませんから」
「……」
不憫だと思ってしまうのは人間のエゴだろう。それが種として存続する最善の方法だ。
Gとは迫害の対象である。いつ何時でも無条件に暴力を振るうことが許される。おれ自身数時間前まではそのように認識していた。しかし今は多分もう殺せない。
ベンチに腰掛けて休む。缶ジュースを買ってやるとG子は両手で包みこむようにして受け取った。「もったいなくて飲めない」というのでおれのを半分分けてやる。「甘い!」と目を丸くする彼女を見て、なぜだろう無性に胸が苦しくなる。
「太郎さんに一つ謝らなければならないことがあるんです。実は恩返しというのは嘘なんです」
「嘘…?」
「わたしGの中でも変わり者で、幼虫の頃から人間に興味があったんです。何度親兄弟に注意されても、できるだけ近くで人間を観察したくて、危ない目にあうことも少なくありませんでした」
「そうだったのか…」
「この間のアレももう少しで死ぬところでした」
先日のG騒動のことを言っているのだろう。
「なにをやってたんだ?」
「…料理の味付けを変えてたんです」
「…え?」
「料理どころかこの家の家事全般はわたしが請け負っていたんですよ。彼女さんはお世辞にも家事ができるとは言えませんでしたから…」
「ああそれでか!」
それで懐かしい味がしたんだ。
ということはもうずっとおれはG子に胃袋をつかまれていたことになる。
「ははっ!」
と思わず笑ってしまった。
「…何かわたし、おかしなこといいました?」
「いやなに、今女の嫉妬みたいなものを垣間見た気がして、Gにもそういう感情があるんだなって」
「もちろんありますよ! 彼女さんは悪びれる様子もなく自分の手柄にするし、太郎さんもそれを疑わないし! 毎度ハラワタが煮えくり返る思いだったんですから!」
G子は理知的な雰囲気から一転、声を荒げる。