正直、太郎は初代桃太郎を恨んだ。
「無論お前に決定権はない。あくまで参考程度にな。どのような果実であれば名乗ってみたいのだ」
一方桃太郎は彼の葛藤など知る由もなく「怒らないからいってごらん」と無責任に答えを促す。
言われて太郎は考え込む。あまり考え事は得意ではないが、久方ぶりに灰色の脳細胞をフル稼動させる。少なくとも初代桃太郎の頼みを断るわけにはいかない。
「では言います…」
「うむ」
「…果物は嫌かな」
「……」
場内がチンと凍りつく。
太郎の灰色の脳細胞は万年お休み中だった。
「おいらもっと強そうな生き物がいいなあ! 龍とか!」
そのようにして語るのは夢見る阿呆少年である。
果物たちは肩透かしを食らい呆れ半分、安堵半分でため息を漏らす。
一方初代桃太郎は白髪を逆立て眉間に青筋を浮かせ、かつての鬼退治を思わせる迫力で
「貴様はナイトスクープの局長にでもなるつもりか!」
ごん!と太郎の脳天にゲンコツを落とした。
恨みは買わずに済んだ一方で怒りはしっかりと買ってしまった太郎は、半べそをかきながら退場していった。
さて話し合いは振り出しに戻った。
次から次へと立候補者は後を絶たない。
やがては南の国の果物たちが「果物差別だ!」とパパイヤ太郎やドリアン太郎やココナツ太郎と騒ぎ立て始めた。ところに、宮崎マンゴーの裏切りで内ゲバが勃発。辺りに強烈な腐臭(主にドリアン)が立ち込める。
一方で「栗太郎」を主張する和栗たちがアイデンティティを見失い、果たして自分たちは果物なのか野菜なのかと涙ながらに訴える。根菜じみた果汁の少なさから果物界に居場所を見つけられず、かと言って木に成る以上野菜の仲間にも入れない。だが結果、古今東西の果物が集められていたことが功を奏した。「ナッツ類」という同じ木に成るパサパサ系の仲間を得たので大事には至らなかった。無論原産国の壁は厚いが。
極め付けは第三勢力、花から生まれた花太郎の乱入だ。いうなれば果物や野菜連中は彼らの成れの果てである。若さと華やかさに圧倒され、両者は防戦に徹せざるをえなかった。ただ飽きっぽいのが玉に瑕だ。
「……」
初代桃太郎は「なんで議長なんて受けてしまったんだろう」と後悔していた。もう声を張る気力もない。
そもそも、この話し合いに答えなどない。
こっそり抜け出してしまおうかと考えていた矢先である。
「みなさん落ち着いてください!」
議長席に突っ伏す桃太郎の視界が、白いもふもふに覆われた。
「桃太郎さんお久しぶりです!」
「おおポチか!」