「じゃあな。運が良ければ、廃棄処理場で会おう」
彼が吐き棄てられたのか、それとも飲みこまれて天命を全うしたのか、ランドセルの底にいる私達には知る由もありませんでした。
弟さんが通う学校は、桂木氏や増田女史が通っていた学校よりもさらに騒がしく、そしてどこかほのぼのとした雰囲気の場所でした。きっと、年齢によって通う学校が変わるのでしょう。弟さんと同い年くらいの子供達があぶくのように声を弾けさせていました。
残された私達二枚は、その時にはもう一種の諦めの境地で、弟さんの手が伸びてくるのを待っていました。自分達は大きな流れの中に存在していて、どんな結末であっても流されるしかない。そんな悟りめいたものを得ていたのです。
「あたし達だけになっちゃったね」
もう一枚が、寂しさを紛らわせるように語りかけてきました。
「うん……、でも、怖くはないわ」
「あたしも。変だね、あれだけ怖かったのに」
そう言って、仲間は「ふふふ」と笑いました。
本当は怖かったのかもしれません。でも、私達は不思議と笑い合うことができました。彼女は、私にとっては姉のような存在でしたから、最後に彼女と残されたのは本当に心強いことでした。
やがて、弟さんの腕がランドセルに突っ込まれ、その指が私達を掴みました。
「いよいよだね」
「うん……」
私も緊張しながら頷きます。
「二枚同時に食べてくれないかなぁ」
「やんちゃそうだから、食べてくれるかも」
私達はまた笑い合いました。それが、最後でした。
「じゃあね！」
小さな指に挟まれた彼女が元気に言いました。
「頑張って！」
私もできるだけ元気な声で返しました。
垣間見えた外は教室の風景。窓の外にある青空がとても綺麗でした。大勢の子供が席について、がやがやと喋り合っています。どの子も楽しげに笑っていて、私は一瞬、彼ら彼女らが天使にも思えました。
弟さんはこっそりと仲間を口に含むと、満足げにくちゃくちゃ噛み始めました。その笑顔を見ているだけで、世界が輝き出す予感がしました。これこそまさに私が望むものなのです。「早く私も食べて」と切に願いながら、私は弟さんの手の中でうずうずと収まっていました。
しかし、神様は、一介の梅ガムに過ぎない私の願いなど聞き入れてはくれませんでした。
それどころか、無慈悲な仕打ちを私に与えたのです。
「こら、増田君！」