小説

『ウサギかカメか』水乃森涼(『うさぎとかめ』)

 勤務時間が終了し、自転車で家に向かう。今日もまた信号に引っかかるが、もう慣れたし、なんとも思わなくなった。途中、少しだけ、スピードを出してみることにした。直線50メートルほど前方の信号は赤だった。スピードは落とさない。残り10メートルになった時に、信号が青に変わった。ペダルを漕ぎながら、左右を確認して車が来ていないことを確認する。信号待ちをしていた数人の歩行者や自転車を菜摘が追い抜いた。夜空には満月が輝く。あの中にもウサギがいるかもしれない。まだ先になりそうだが、自分も自分らしい生き方を見つけられるはず。

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