6つめのドアが閉まる音がして。
辺りは闇に包まれた。
そしてシンデレラは、舞踏会で王子様と出会い、幸せになりました。
めでたし、めでたし。
「じゃあ、無いっての」
ニキはばちゃんとバケツにモップを突っ込む。
「どういうこと?何で私はこのままなわけ?」
忌々しげに呟くと、唇を尖らせた。
過去から戻ってきたニキは、自分が一体何者になったのか、とあたふたしたのだが、そんな心配はなんのその。
相変わらず掃除婦として働いている人間だった。
「つまり、過去は何も変わってなかったってことだ」
台所のカーテンの隙間から、窓辺で日向ぼっこをしているルークの声がする。
「元よりシンデレラに魔法をかけたのは、俺じゃなくてニキだったんだな。ふふふっ、自分で自分を掃除婦にするなんて、ニキは変わってる」
ルークが馬鹿にしたように笑う。
「このお!」
ニキは思い切りカーテンを開けた。
そこには青年が腰かけていた。
ふふふっと笑うと、鼻に手を当てながら照れたように呟く。
「神さまの、気が済んだみたい」
こんな青年、見たこともない。
けれどもニキには、彼がルークだということがすぐに分かった。
だって、その瞳はルークのそれそのものだった。
二人は初めて、両手で互いを抱きしめた。
窓からは、柔らかな光が二人を照らしている。
キラキラとこぼれる光は、まるで魔法のようだった。
過去を変えることはできなくても、未来を変えることはできる。
だから過去になんて戻らないで、今を生きよう。