魔法使いがシンデレラのボロボロの服を手に取って杖を振ると、たちまち服は、美しいドレスに変わった。
「馬車には、馬が必要ね」
魔法使いが呟くと、そこにネズミたちがチュウチュウ、とやってくる。
「ありがとう、よろしくね」
魔法使いが笑って杖を振ると、たちまちネズミたちは、白馬に変わった。
シンデレラは嬉しくて、堪らない。
すぐさま馬車に飛び乗った。
鮮やかな水色のシンデレラのドレスが、夕闇の中でなめらかに光っている。
「あ!大事なもの、忘れてるわ」
慌てて、魔法使いはシンデレラに駆け寄ると、彼女の靴を触って杖を降る。
靴はたちまち、ガラスの靴に変わった。
「魔法は0時で消えてしまう。それまでに帰ってらっしゃい」
魔法使いが言うと、シンデレラは笑顔で頷いた。
「分かったわ。ありがとう、魔法使いさん」
「幸せにね。シンデレラ」
シンデレラを乗せたかぼちゃの馬車は、急ぐ夜の中を、キラキラと光りながら去っていった。
ボーン、ボーン。
大きな柱時計の音がする。時刻は6時だ。
きっかり6時間。未来に戻る時間だ。
ニキは家の中に戻った。
ルークの元に杖を返すと、彼は言った。
「どうして?」
ニキはルークの手に持たせた杖を自分に振ると、たちまちドレスは元の薄汚れた服に戻った。
ボーン、ボーン。
時計は止まらず時を刻み続ける。
「これで、過去を変えたのはあなたじゃない。私だわ」
ニキはまっすぐにルークを見つめた。
「どうせ、戻っても私は掃除婦よ。いいわ、この先何になったって」
そしてパチンとウインクする。
「もしも私が猫になったら、一緒に遊んでね」
ボーン、ボーン。
時計の最後の音が鳴った。
バタン、バタン。
1つずつ、扉が閉まっていく音がする。
バタン、バタン、バタン、バタン。