過去のニキが、そばにあったモップを掴んで、思い切り振り回す。
やめて。
ニキが心の中で叫んだがそれには何の効力もなかった。
「ギャン!」
モップはルークに思い切り当たる。
その瞬間は、まるでスローモーションのようにゆっくりだった。
ニキの心臓の音が鳴る。
どくん、どくん。
ゆっくりとルークは倒れ、その場にうずくまり小さくなった。
「もう行きましょう。遅刻だわ」
過去のニキが言い捨てて、姉と家を出て行く足音が遠くで聞こえていた。
ゆらゆらと焦点の留まらない動きで、ニキはルークに近づいた。
「ごめんなさい…」
大粒の涙が、ルークの身体に落ちる。
「いいんだ。過去は、変えられないんだから、今の君は悪くない。泣かないで」
ルークはニキの涙を拭おうと、手を伸ばしたが、起き上がれはしなかった。「参ったな、起きられない」
「悪いのは俺だ。俺がもっとうまくやれればよかったんだ」
ルークは自らの手を握り締めた。
「俺は、ほんと、いつだって失敗してばっかりだ」
そう言うと、彼の目から涙が零れた。
それは、キラキラとルークの体を伝って、床に落ちると星のように跳ねた。
ルークはゆっくりと目を閉じる。
ニキはルークをそっと大時計の傍に横たえた。
「失敗になんか、させないよ」
眠ってしまったルークにニキは呟く。
その目に、もう涙はなかった。
「これは一体、どういうこと?」
シンデレラは、目を覚まして驚いた。
目の前には、見たこともない美しいかぼちゃの馬車がある。
「さぁ、シンデレラ。舞踏会に行きなさい。私が今、あなたに魔法をかけてあげる」
そう言って杖を振るのは、見たこともないキラキラとした光を放つドレスを纏った魔法使い。