「つまり、お前がシンデレラの邪魔をしてシンデレラが舞踏会に行けなくなっても、その後お前はお前じゃなくなっちまうんだよ」
なるほど。それは確かに困る。
「分かったわ。じゃぁ折角過去に来たって、私にできることなんて、何もないのね。」
「そういうこと。わかったら、大人しくやり過ごすことだけに注視してくれ」
つまんないわ。結局、私の人生なんて。
ニキは溜息をついて、衣装部屋で楽しそうにはしゃぐ過去の自分を横目でみた。
「今のうちよ。数ヵ月後には、あんたなんて掃除婦よ」
それにしても、シンデレラは働き者だ。
ニキは誰にも見つからないよう、人のいない方、いない方へ行くのだが、掃除をするシンデレラは次から次へと部屋を開け放ち、あっという間に綺麗にしていく。
「あんな隅っこ、掃除しなくたって誰も気づかないのに」
大きな柱時計の後ろを丁寧に雑巾で拭くシンデレラを見ながらニキは呟いた。
少なくとも、自分は一度もあの場所は掃除していない。
ということは、未来の世界では、あの場所には随分とホコリがたまっているんだろうなと考え、ニキはうんざりした。
更にニキをうんざりさせるのは、過去のサシャと自分だった。
シンデレラがやっとあと少しでこの部屋の掃除が終わる、というタイミングで「シンデレラー!ちょっときて!」と呼びつける。
さっさとシンデレラの掃除が終わらないことには、ニキは一つのところに腰を落ち着けられやしない。
「あぁ、ガツンと言ってやりたいわ」
唇を噛むニキをみて、ルークがにやにやと笑った。
「そしたらその瞬間、お前は消えるな。それもまた一興」
じろりとニキがルークを睨む。
「怖、怖」
ルークはささっと猫の歩き方で逃げ出すと、そばにいたねずみをヒョイっと捕まえてじゃれていた。
掃除が終わったのはもう暗くなってからだった。
「ふーっ」
掃除が終わると、シンデレラは大きく息を吐いて部屋の隅の壁にもたれ掛かった。
そしてそのままずるずると膝を折ってペタンとその場に座り込むような格好になる。
走り回ったせいで、足が痛いのだろうか。
ふくらはぎを自分で撫でていた。
そして目を瞑ると、そのまま眠ってしまった。
シンデレラの閉じた長いまつげには、埃がのっている。
頬には煤がついていた。