「零士、あんた自分がどんな服が似合うか分かる?」
洋服選びの手を止め、玲子姉さんが振り返り質問してきた。
「いや、分からないです。」
「まずそこから学びなさい。自分がどんな色が似合うか知ること。最初は私が選んであげるけど次からはあんたが自分で選ぶのよ。」
「はい・・・。」
「服装で大切なことはなんだと思う?」
「え、」
「十、九、八、」
いきなりのカウントダウンに戸惑う。
「似合う色を知る事ですか。」
「それは今言った。七、六、五・・・。」
「ごめんなさい、分かりません。」
「正解は、清潔感。」
「清潔感・・・。」
「そう、あんたぐらいの年齢のガキが高いの買ってオシャレしたってたかが知れてるのよ。それよりも大切なのが“清潔感”のある服を着ること。無理して高いの買って何回も着回すより、安くても常に新しい服を着ている方が清潔感があって印象はいいのよ。」
そう言って、また服を選び始めた。我が姉ながら的確な事を言ってくると感心した。てっきり、おしゃれ=高い、というイメージがあった。
その後、玲子姉さんに色々教わりながら髪型と服装選びは終わった。
そしてこの頃になると学校での僕を見る周囲の目も変わって来ていた。
「零士、なんか最近イメチェンしてない?」
イケてる男子グループの一人から話しかけられた。今まで目も合わせようとしなかったのに、ここに来て急に話しかけてきた。
「最近成績も上がってるし、なんかあった?」
「いや、何もないけど。」
「嘘だよ、なぁ。」
そう言って他のメンバーに声をかける。そして「俺も思ってた。」とぞろぞろと僕の机の周りにイケてる男子グループが取り囲んだ。普段、雅和さんを見ているので多少のイケメンの免疫はできているつもりだったが、急に大勢で来られると流石に緊張する。
「なんかやってるだろ、言えって。」
「そんな、特に何も。」
「何?どうしたの?」
恐縮していると今度はイケてる女子の一人が会話に入ってきた。マズイ、まだ姉さん達に女子と会話の仕方を教えてもらっていない。
「だよね、最近ちょっと格好よくなったよね。」
話を聞いた女子から想定外の言葉が出た。体が固まる。生まれてから今まで一度として言われてこなかった言葉が、予期せぬこのタイミングで言われた。
「あ、ありがとう。」