真剣な表情の京子姉さん。「どうか心優しい人でお願いします」と心の中で手を合わせた。
「こんにちは、よろしくね。」
笑顔で手を差し伸べてきた男性の手はとても大きく、力強かった。
「雅和さん。今日からあんたに勉強を教えてくれる人よ。」
京子姉さんは雅和さんの横に立って、紹介してくれた。
「なるほどね、彼氏ね。」
後ろで玲子姉さんが納得の声を出した。
「しょうがないでしょ。この人が知り合いの中で一番教え方が上手そうだったんだもん。」
「別に文句なんかないわよ。」
「知り合いって・・・一応彼氏でしょ。」
雅和さんは苦笑しながら、京子姉さんを見る。
「細かい事気にしないでよ。そんな事より零士の事よろしくね。」
「大丈夫、任せて。」
ニコッと爽やかな笑顔を向けてこちらを見る。この家に入った時から感じていたが、この雅和という人は恐ろしく格好良い。すらっと伸びた身長、整った顔面、張りがある肌、均整の取れた体格。清潔感のある服装。男の自分でさえ惚れそうな男性だ。自分は果たしてこんな風になれるのかと疑問に思ってしまう。いやたぶんなれない。
「じゃあ零士君、早速勉強しようか。」
また爽やかな笑顔で勉強を促してくる。
「あ、はい。」
なんの抵抗もなく部屋へと足が向く。あんなに恐怖していた勉強時間をすんなりと受け入れている。原因ははっきりと分からないが、目の前の男性は『この人なら優しく教えてくれそうだ』そんな笑顔をしている。恐るべしイケメンパワー。
そして月日が流れ、半年がたった。
変化したかと言えばかなり変化した。まず学力は格段に良くなった。雅和さんの教え方は半端じゃなく分かりやすく、そして何より優しい。的確なアドバイスで成績は上昇した。半年前は学年で150位だったが、今は50位以内にはいる。自分でも信じられなかったが、雅和さんは「よかったね。よく頑張った。」と優しい笑顔で褒めてくれた。好きになりそうだった。
次に体型。マラソンや筋トレの甲斐があって自分は見事に痩せて細マッチョになっていた。90キロあった体重が68キロになり、身長が170㎝にしてはしっかりした体型になった。これは京子姉さんのおかげ。朝は叩き起こされ、夕方も自分の限界までやらされる。その容赦ないトレーニングは絶対に自分一人では出来ない。しかし京子姉さんは「こんな事は基本だ。」と言って自分のトレーニングも欠かさず行っていた。京子姉さんが綺麗を保っている理由を垣間見た気がした。
そしてそこから次の段階。今度は髪型と服装。まず玲子姉さんに美容室に連れて行ってもらい、似合う髪型を探した。といっても僕の意見はほぼ入らず、玲子姉さんと美容師さんが話し合って決めてくれた。短髪の清潔感のある髪型に仕上がった。そして次は服装。
「これ、これ、これ、これ、これ・・・・。」
カジュアルな服で有名な量販店に入り、次々と選んでいく。アパレル関係に勤めている玲子姉さんの事だから、もっとお洒落なお店で、念入りに服を選びそうだったが実際はサクサク決めていった。