初めの一週間から姉たちは飛ばした。
・5:00~6:00 マラソン
・6:30~7:30 勉強
・7:30~8:00 朝飯
・9:00~15:30 学校
・16:00~18:00 マラソン&筋トレ
・18:30~19:00 夜飯
・19:00~22:00 勉強
・22:00~23:00 風呂&就寝
これが自分に課せられた一日の基本構成。これを毎日こなしていく。筋トレは京子姉さん、勉強は玲子姉さんが担当した。今までこんなスケジュールで動いたことのない自分は、案の定すぐにくじけそうになった。しかし姉達の恐ろしさと『モテたいヤリたい』という強烈な欲望が過酷なスケジュールをこなさせた。一週間、一か月、辛いながらもかろうじでついて行っていたが、一つ問題が発生した。それは一学期の中間テストの時に発覚した。点数が良くない。訓練を始める前よりはましだが、思っていたほど伸びていない事に姉たちが首を傾げた。
「零士、あんた本気でやってんの?」
勉強を教えてくれていた玲子姉さんが険しい顔で聞いてくる。
「やってます!」
即答しないと殺される。この一か月ほどで姉たちの怖さは充分身に染みていた。
「じゃあ、何で成績が前と変わらない?」
「分かりません。でもサボってるわけじゃないです。」
「・・・。」
玲子姉さんは腕組みして考え込む。
「玲子、あんた教え方が怖いんじゃないの?」
「そんな事ないわよ、ねぇ?」
こちらに同意を求められても否定は絶対に出来ない。
「それが怖いのよ。」
「京ちゃんだって、充分怖いわよ。」
「恐怖での勉強は零士に合ってないのよ。」
京子姉さんは的を得ていた。まさしく教え方が“怖い”のだ。マラソンや筋トレは“恐怖”に関係なくやった分だけ身になる。しかし勉強だけは「バカ」「カス」「クズ」と罵られ、答えを間違えれば容赦なく頭をひっぱたかれる。そんな事を繰り返される内に、先に“恐怖”が来てしまい、なかなか勉強が身にはいらなかった。
「勉強だけは違う人にやってもらいましょう。」
「ちょっと待ってよ、まだ始まったばかりじゃない。」
玲子姉さんが食い下がる。自分はただ見ている事しか出来ない。
「玲子、本筋を見失わないで。これはあんたの教え方が上手いか下手かを判断するものじゃなくて、零士が変わる事が目的でしょ。」
「・・・。」
不服そうな顔をしているが何も言い返さず頷く玲子姉さん。申し訳ない気持ちだったが、あの恐怖から逃れられると思うと救われた気分だった。
「じゃあどうすんの?」
「明日助っ人を呼びます。」