「え、あ、はい。」
「モテたいか?」
「は、はい。」
「声が小さい。」
「は、はい!」
「は?なに?」
「はい!」
「ヤリたいか?」
「はい!」
「途中でやめたりしないか?」
「はい!」
「約束破ったらどうする?」
「・・・。」
「去勢するか?」
「きょ・・去勢・・・。」
我が耳を疑った。自分の姉ながら恐ろしい事を提案してくる。
「するか?」
表情を変えずにもう一度聞いてくる。ここで断れば姉からの協力は完全になくなってしまうだろう。
「・・・。」
姉の恐怖心に声が出ず、頷く事しか出来なかった。
「分かった。じゃあ、大学生になる頃にはお前をモテてモテてしょうがない男にしてやる。」
後ろで見ている玲子姉さんも頷いている。本当にそんな事が出来るんだろうか。
「零士、モテるために何が必要だと思う?」
「・・・顔ですか?」
「それと?」
「体形。」
「それと?」
「お金。」
「それと?」
「やさしさ。」
「それと?」
「頭がいい。」
「それじゃ、今お前が満たしているものは何だ。」
「・・・やさしさ。」
言った直後に後悔した。京子姉さんの眉間に皺がさらに寄った。
「お前のは優しさって言わない、ただ暗いんだよ。」
玲子姉さんも後ろで頷く。
「お金は学生だからまだいい。でもそこまで分かってるんだったら後は実行あるのみだ。明日から始めるぞ。」
京子姉さんは「明日から5時に起きろ、走るぞ。」と言って自分の部屋に戻っていった。
「頑張れ。途中でばてんなよ。」
玲子姉さんもそう言って部屋に戻っていった。
リビングに自分一人が残され、さっきまでの事が嘘のように部屋は静まり返った。明日から何が起こるのか?まず走る事は確定している。しかしそれ以外の事がまるで分からなかった。自分のお願いは本当に正しかったのか?もしかしたら大きく道を踏み外しているのかも知れない。そんな不安に駆られながら、その日はほとんど眠れなかった。
そして次の日から自分にとって『地獄』が始まった。