申し訳ないけど、あんたの頼みをきく気はさらさらないんだ。
高校に入って一週間で、私は話をしたこともない先輩を含めた三人の男子に告白され、その全てを「ごめんなさい」と「無理なんで」の華麗なコンビネーションでマットに沈めた。それ以降も時折現れる挑戦者達への対処も同様だ。
自慢ととられるだろうからあまり自分で言いたくはないのだが、正直、私はかなりもてるし、自分でも整った顔立ちだという自覚はある。こんな体質でなければ、その恩恵を存分に享受し、高校生らしい青春をこれでもかと謳歌したのかもしれない。
しかし嘘アレルギーの私には、クラスメート達の語る恋やら愛やらは、どこか遠くの惑星を舞台に繰り広げられる冒険ファンタジーにしか思えなかった。
中学の時、何人かの男子と付き合ったことはある。しかし、どれも長続きはしなかった。
輝く瞳と、稚拙ながらも熱っぽい愛の囁きの中に次第に増えていく嘘。気づかぬ振りが苦痛で、真実を打ち明ければやがて向こうから去っていく――その繰り返し。
そんな訳で約一週間前。後期日程が始まってすぐ、下校途中の下駄箱前で「なあ、黒木」と秋月が声をかけてきた時は、「ああ、久しぶりだなこういうの」くらいにしか思っていなかった。
確か、同じクラスの男子だ。人懐っこい笑顔の持ち主で、短く切った髪には清潔感がある。常に明るく、クラスの中心にいる様なタイプ。要は、私とは正反対な人間だ。
見た感じそこそこ女子には人気がありそうだけれど、登った山が悪かったわね――上から目線で脳内品評会を終え、私はいつもの様に迎撃態勢へと移行する。長引かせるのは時間の無駄だ。
「急にこんなこと言ったら、驚くかもしれないけど――」
「ごめん」
「え?」
「無理だから」
「いやいやいや――まだ何も言ってないじゃん」
慌てた素振りで抗議する秋月に、私は内心で舌打ちをする。
ゾンビかてめえは。どうやら切れ味が鋭過ぎて、バッサリ斬られたことにも気づいていないらしい。
私は今度こそ頭を撃ち抜くつもりで、はっきりと言い放つ。
「悪いけど、今は誰とも付き合うつもりはないの。ごめんね」
穏やかながら、しっかりと「拒絶」のニュアンスを口調ににじませる。さあ、これでどうだ。
しかし、秋月の反応は予想外のものだった。
一瞬の沈黙のあとで盛大に吹き出した秋月は、腹を抱え、涙を浮かべて大笑いした。ちょうど通りかかった用務員のおばさんが、何事かと訝りながら廊下を通り過ぎていく。
「違う、違う――そうじゃないって――いくら俺でも、『氷の女王』を口説こうとするほど命知らずじゃないよ」
氷の女王?いつの間にそんな恥ずかしいあだ名がついていたのか。