話を聞き終えたママは麦茶を飲んだ。たかしは、全てではないが、見ていて辛かったこと、悲しかったことを話した。胸のつかえは随分下りたが、同時に隠れていた重圧が表出し、うなだれてしまった。
「そっか、そういうことか。辛かったね」ママは再び言った。
「今回のことは……」パパが口を開くと、ママが鋭い視線を投げた。パパは二回頷いた。説教は後ほど承ります、というアイコンタクトが成立した。
「今回のことは、パパが全面的に悪い。……たかしがそんなに、そこまで、真面目に考えちゃうと思わなかったんだ。ごめん、……ごめんなさい」パパはたかしに頭を下げた。
「いいんだよ、パパ。……むしろ良かったと思ってる」たかしは小さく微笑んだ。
「たかし、世界には色々あるのはわかるのよ。どうでもいいことなんて思わないわ。でも、物事には優先順位があるの」ママは肝心なときは必ずそうするように、目をまっすぐに見て話した。たかしは頷いた。
「難しいんだけど、今、自分がすべきことに対して、しっかり目を向けて欲しいの。もちろん……」
まだ話そうとするママをたかしは手で制した。
「わかってるよママ、……ケンちゃんもさ、すごく心配してくれた。一旦、……フフッ」たかしは少し笑った。その笑顔はニヒリスティックではなかった。
「一旦、哲学はよすよ。明日からまた勉強するさ」
「たかし……」そういってママはたかしの頬に触れた。グスッ、後ろではパパが鼻をすすっていた。
「じゃあ、これは時が来るまで封印だな! 明日、会社に持って帰るよ」
そういってパパはシミュレーターに黒いゴム製のカバーをかけた。と同時に辺りは一斉に闇に包まれた。三人は、おし黙った。外で車が壁に激突するような音が響いた。
「たかし、居るかい?」パパが聞いた。
「い、居るよぼく。ママ! 無事?」
「大丈夫よ」
「どうしよう? 何も見えない」たかしは言った。
「落ち着いて。ゆっくりでいいから、光を探そう」パパはそう応えた。