すなわち、殺人、略奪、強奪、奴隷労働、人身売買、女性や子供に対する酷い仕打ち、戦争、大量殺戮、虚栄、悲惨なまでの差別……。それらの光景は絶え間なくたかしの視界と脳ミソを襲い続けた。
どうにか観察を続けてきたが、先ほどの長髪の男の処刑シーンで遂に限界が来た。見ていられなくなってしまった。
さまざまな断片的で悲惨な光景がたかしのまぶたの裏に渦巻いていた。
仰向けになり深呼吸をしていると、外からアブラゼミの声が聞こえてきた。8月に入ったばかりの真夏の昼過ぎだった。
ひとしきり鳴き終わったセミは、「ジッ」と別れの挨拶をして飛び立った。
たかしはゆっくり立ち上がって、ノートパソコンの電源を入れた。その動作は緩慢で、目は完全に無気力だった。
『自由研究』のフォルダを開き『プロット』のメモ帳を開くと、しばし考え、呆然とキーボードを叩いた。
‘人間は、必要なのか?’
三十度を超える部屋の中、たかしは瞬き一つせずにモニターを眺め続けた。
翌日、塾から戻ったたかしはシミュレーターを見た。
その翌日も、プールから戻ったたかしはまたシミュレーターを見た。その翌日も、そのまた翌日も、たかしは観察を続けた。
時代は産業革命を越え、現代に近づきつつあった。たかしはさまざまなモノを見てきた。
一列に並ばされて銃殺される兵隊、ショートパンツ姿で街角に立つ少女、アフリカゾウを撃ち殺す脂ぎった男、右手を挙げて演説するチョビ髭の男、広島と長崎に立ち上る巨大なキノコ雲、重油にまみれて動けぬ海鳥、戦車に踏み潰される中国の青年……。
ふと、ラインの着信音に気付いた。ケンちゃんからだった。
‘最近、ちょっと様子がヘンだよ? 平気??’
文章を一瞥したたかしはスマホをベッドに放り投げた。それから、口元を歪めて力なく笑った。
「…………ウへへ、……ハハ…………アハハハ……」
そして、また数日が過ぎた。
「行け! ……入れ!」
晩の食卓に坐ったパパが小さく叫んだ。筒香嘉智の放ったレフト方向への大飛球は、ギリギリでポールの外側を通ってファールとなった。
「あぁー! 風があったか……」
パパはそう言って旨そうにビールをすすった。