平然とそう言う彼女に、麗羅は恐怖した。憤怒と恐怖が綯い交ぜになり、感情の収拾がつかない。
「ゆ、ユキちゃんに何かあったら、どうするつもりなんですか……」
「どうもこうも、あれを食わしたのはアタシじゃないし」
「は、」
「“農薬入り”のクッキーを喰わせたのは、アタシじゃない」
「の、農薬!?」
「竹桐に渡したのも、喰わせたのも、アンタじゃん?」
「え」
「かわいそうに竹桐、アンタのせいで死んじゃうかもね?」
そんな、なんてことを。茫然自失といった様子で麗羅は呟いた。
女は麗羅の様子に、全てうまくいったと喜びに満ちていた。
「アタシがクッキーを用意したことは、誰も知らない。袋には証拠となる指紋も残ってないよ? 学校のみんなは、今日アンタが不自然な様子で竹桐に声をかけたのが印象に残ってるだろうね」
追い詰めるように、麗羅に囁く。
「かわいそうな竹桐、お友達に殺されちゃうなんてね」
ニタリと笑う女のその様は、まるで悪魔のようだった。
屋上のフェンスの向こう側、麗羅は呆然と立ち尽くしていた。
脱いだ靴の下には、自分がこれまで受けてきたいじめのことと、白雪に起こった不幸の原因を詳細に綴った遺書を置いた。
きっと警察が見つけてあの女を罰してくれるだろうと信じている。
「ユキちゃん、ごめんね」
最後にそう呟いて、麗羅は落ちていった。
いつだって、私の後ろにはれーちゃんがいた。
引っ込み思案で臆病で、怖がりで泣き虫。そんなれーちゃんを守ってあげるのが私の役目だと信じていた。
だから、あの日急にれーちゃんが私と距離をおき出したのには、本当に愕然とした。
ふさわしいとか、ふさわしくないとか、そんなくだらないことどうでもよかった。
私はただ、一番のお友達のれーちゃんといつまでも仲良しでいたかっただけなんだから。
警察の人に渡された遺書のコピーを見やる。