小説

『魔女がもたらすもの』夜月朔夜(『白雪姫』『シンデレラ』『かぐや姫』『ロミオとジュリエット』)

「ま、そーいうことだから、これ、早めに渡しといてよ。せっかく作ったんだから。くれぐれも、アタシが作ったってことはまだいうんじゃないよ。サプライズなんだから」
 そう言って、彼女はクッキーの入ったギフトバックを麗羅に押し付け教室を出て行った。
 後に一人残された麗羅はまじまじとギフトバックを見る。
(……ユキチャンに渡せって言われたけど、どうしよう)
 遠い昔のあの日、世界の全てが怖くなってしまったあの言葉を受けて以来、白雪と麗羅はまともに会話をしていない。今更どんな顔をして声をかければいいのかすらわからない。
 かと言って、この頼まれごとは今までからしてみればありえないくらいの扱いだ。
(もし、もしちゃんとこの頼まれごとができたら……)
 いじめられなくなるかもしれない。
 そう、麗羅は思った。

 

 結局麗羅がクッキーを無事に渡せたのはお昼休みになってからだった。
「れーちゃんから話しかけてくれるなんて、小学校の時以来だね。嬉しいなぁ。今日はどうしたの?」
 三限と四限の間のわずかな休み時間に「ひ、昼に屋上! きて…くだ、さい…!」とそれだけ伝えて麗羅は逃げたのに、白雪は言われた通りに麗羅に会いに屋上へとやってきた。そのことに、麗羅は言い知れぬ喜びを感じていた。もしかしたら、昔みたいに戻れるのかもしれない、と淡い期待が胸に宿る。その思いを糧に、なけなしの勇気を絞る。
「こ、これを……。ユキチャンに、あ、あげたくて」
 後ろ手に隠していたギフトバックをそっと彼女へ差し出す。
 白雪は驚いたように目をわずかに見開き、無言でそれを受け取る。
「これ、れーちゃんが?」
「なっ、仲直りの、印に……」
 朝、女が言っていた言葉をなんとか絞り出す。
 白雪は手渡されたそれをまじまじと見つめる。やがて麗羅へと視線を戻すと、満面の笑みで笑った。
「ありがとう、れーちゃん。本当に本当に、嬉しいよ」
 その綺麗すぎる笑顔に気恥ずかしくなり麗羅はとっさにうつむいてしまう。
「小学生の頃、急にれーちゃんが離れて行って、私実は謝りたかったの」
「えっ?」
「れーちゃんはいつも私のそばにいてくれたのに、急に私から離れたんだもの、きっと私がれーちゃんに何かしちゃったんだと思って。ずっと謝りたかったの」
 思いがけない白雪の言葉に、麗羅はとっさに否定する。
「ちっ、違うの! ユキチャンは何も悪くないの! 悪いのは全部私、私なの!! 私なんか、ユキちゃんの友達にふさわしくないって、そう思って恥ずかしくなって……。だから、ユキちゃんは何も悪くないの!」
 麗羅の言葉を、白雪は黙って聞いていた。

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